ARCHITECTURE STORY

兵庫県丹波市/飲食店/新築/2016年8月竣工

ウッドデザイン賞2016

Y-PROJECT

六次産業化の推進と地元の産業拡大のために丹波の食材を生かした食堂、食育体験交流コーナー、物販コーナー等を備えた地域活性化の拠点となる施設です。地域材の普及や森林の保全を意識し、構造材、内外装材、家具に至るまで丹波市産の杉材を使用しています。また建物中央に地域の象徴として「おくどさん」を配しました。絶えずここを意識させる動線計画とし、このカマドが引き立つシンプルなデザインで全体を構成しています。職人により丹精を込めた手仕事として施工され、使用者によって愛情を込め日々磨き上げられていく。この黒きカマドから立ち上がる煙が地域の復興の息吹となることを願って計画しました。

建物概要

建物名称 Y-PROJECT(地域制限活用拠点施設 ゆめの樹)
発注者 株式会社ゆめの樹野上野
所在地 兵庫県丹波市春日町
用途 飲食店
工事種別 新築
規模構造 木造/平屋建
敷地面積 921.42m²
延床面積 250.32m²
竣工年 2016年8月竣工
備考 ウッドデザイン賞2016 受賞
Director 藤田瑞夫
Designer 澤田伸一
Assistant 石井義信
Estimater 杉山栄一
Site manager 荻野展由、足立洋介

設計アプローチ

地域の活性化と自立を目指す試み

近年、丹波市の人口は減少の一途を辿っている。そして消費が激減し経済力の低下を招き、人口減少に拍車をかける。兵庫県丹波市春日町野上野(右写真)も、かつて観光農園で栄えたものの後継者不在による閉園後は原野化してしまいました。多くの農家が先代から受け継いできた多くの農地が存在するものの、担い手(後継者)不足による問題は深刻になってきています。農 村の強みであり、生計を立てる源であった農地が疲弊していくのは、もはや農業従事者だけの問題ではなく集落全体の問題として捉え、野上野地域では、地域が自立するための法人「株式会社ゆめの樹野上野」を立ち上げられ、集落を経営する視点で循環型まちづくりを進めようとされていました。地域(経営)資源の連携と活用により活性化と自立を目指すもので、地域(経営)資源とは、集落内の人・産物・環境・歴史・資金・情報・ノウハウ等全てで、ここに建築材料としての地元丹波市産のスギ・ヒノキ等の木材を含め、さらなる地域資源をいかした計画とすることを試みました。

「株式会社ゆめの樹野上野(かぶしきがいしゃ ゆめのき のこの)」 とは、
野上野の循環型まちづくりを進めるために、地域内の経営資源の連携と活用により活性化と自立を目指すもので、自治会100%出資の全国でも珍しい自治会法人です。
http://yumenoki-nokono.jp/

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打ち合わせエピソード

地域経済循環創造事業(ローカル10,000プロジェクト)

株式会社ゆめの樹野上野では、これまで地区内にある栗園の整備や地区内の農産物を生かした加工品の製造販売などに取り組まれ、今後はこの取り組みをさらに進め、6次産業化の推進と地元の産業拡大のために飲食店や物販スペースを備えた活性化拠点施設が必要とされていました。

そこで建設資金を確保するために、平成27年度の総務省の「地域経済循環創造事業交付金」に応募されることとなり、早急な事業計画の作成が必要とされていました。マスタープランの作成の依頼を受け、急ピッチで対応させていただきました。地域経済循環創造事業交付金は、「あと一歩」で実現できるような地域活性化に資する事業について、当該事業の初期投資額に充当されるものとし、その後の事業の状況・成果等については、検証・研究を加え、産業界、大学界、地域金融機関等との連携により、各自治体が将来に富を生み出す仕組みづくりにつなげることを目的とするものであります。

ゆめの樹の取り組みは、地域経済イノベーションサイクルとして効果の高いビジネスモデルを有していること等が評価され、丹波市野上野スターコンテンツ(栗・小豆・黒豆)活用拠点施設整備事業として採択され、交付金を受け、施設建設の資金の一部を得られました。

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丹波ブランドの再考①(栗・小豆・黒豆)

丹波には他地域がうらやむブランド素材が沢山あります。しかし、資源・素材は活用があって初めて大きな武器となり付加価値を生み出し経済効果をもたらしてくれます。いくら全国に名を馳せる丹波ブランドがあろうとも、その活用がなければ丹波地域の活力にはなりません。丹波ブランドが有効に活用されていない事例の筆頭として「丹波栗」があげられます。丹波栗の歴史はとても古く、日本に伝存する最古の正史の「日本書紀(西暦720年)」にも丹波栗を思わせる記載がみられ、927年制定「延喜式」には栗を朝廷に献上来る国として「丹波」の記載があります。栗は丹波の風土が育成に適しており、度重なる改良と丹波地方独特の濃霧などの気候、そして生産者の努力のおかげで日本最大級で最高の風味の栗と言われる程になり、そのあまりの美味しさの為に朝廷や幕府に献上されていた丹波栗は噂が噂を呼び、参勤交代などを通じて全国各地へと広がる事になりました。

品種や栽培の技術が全国に伝わっていく中で、丹波栗は丹波のブランド素材の一つとして長年存在していましたが、近年では地域の過疎化、後継者不足から出荷量は激減し、丹波は栗の産地として全国の他地域の後塵を拝するようになってきました。 (一部「夢の里やながわ」様のホームページより引用)

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丹波ブランドの再考②(杉・桧)


丹波地域の気候は、寒暖の差が大きく、この施設の飲食メニューとなっている栗や小豆といった特産物だけではなく、木材の生育にも適しており、年輪の締りが良く、強度に優れるという特性を生みます。
現代の名工、数寄屋師の木下孝一棟梁の特集記事に次のような一節があります。(新建ハウジング H15.1.1より)

まして細い柱にホゾを貫き何百年も持たせようと思ったら、どこの木が強いかを知ることほど大切なことはありません。
-中略-
私の経験では、吉野や丹波のスギやヒノキが一番構造材に適していると思います。

ここでは、年輪幅を細かくして強度と耐水性のある木材にするため、植林の時から密植して、間伐まで計画されて育てられている吉野のスギ、ヒノキと丹波のスギ、ヒノキが同等に語られています。しかしながら、丹波のスギやヒノキがそうした品質の良さを持ちながらそれらはあまり知られてはいません。これもまた丹波ブランドが有効に活用されていない事例といえます。

また、兵庫県の面積の67%が森林で、その森林のスギやヒノキは伐採の時期を迎えています。しかしながら木材の利用が減っており、伐採・植林・保育の循環が滞っているという実情があります。このまま木材の利用が減少すれば、山が荒廃し、森林の元気がなくなってしまいます。丹波市産材や兵庫県産材を使用することは、そのサイクルを促し山を守ると同時に、耐久性にとんだ建築物を提供できることにつながるのです。

当社の年間の兵庫県産木材の使用量は、2015年 468.93m3、2014年 307.80m3 で、当社の年間の丹波産材の使用量は、2015年 76.88m3、2014年 53.25m3 でわずかではありますが、今後はクライアントの理解を得ながら、2016年度は100m3以上、2018年には200m3、2020年には300m3程度の丹波産材の使用を目指し、地域材の普及を意識しています。
今回計画した「ゆめの樹」では、構造材、下地材、内外装材、家具造作材に至るまでできる限り丹波市産の杉材を使用し、使用量は 32.61m3 となっています。

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プロフェッショナル

コンセプト

建築そのものが地域活性化のプロモーションのショーケースとなるよう意図しました。 この施設は、その設立の目的、建築の構造材、仕上材、家具材、施設を運営する人材、食材等において、「衰退していく中でその存在を見直していこうとするモノ」たちですべてを構成しています。丹波栗をもって丹波の木材の品質を、杉材のテクスチュアをもって野上野地域の循環型まちづくりの取り組みを、おくどさんから立ち上がる煙をもって過疎化する地域の再生を語るといったように、あらゆる要素は「野上野地域の活性化と自立の取り組み」のメタファーとして扱っています。

建築業界の中で衰退している業種の筆頭が左官業です。左官業の衰退した要因は、丹波の農村が衰退していく要因と似ており、産物の品質の良否に関係がないところでその価値が失われ、後継者不足から衰退に拍車がかかっているという実情があります。この施設では、丹波材による木質化に加えて、左官仕上を積極的に採用しました。床はモルタル金コテ押さえ、壁、天井は漆喰塗り、おくどさんは黒漆喰磨き仕上となっています。

お米や小豆がおいしく炊ける「おくどさん」はこの施設には欠かすことのできない存在です。しかし現代ではその存在を見ることはほとんどなくなってしまいましたが、過去の遺物になったわけではありません。その効能は現代の技術をしても代替できないものであります。これは野上野地域の栗、小豆、黒豆の特産品の性質と似ており、建築業における左官の技術とも似ています。そうした意味において「おくどさん」をこの建物、この地域の象徴として扱うことにしました。平面計画において、建物中央に「おくどさん」を配しています。必ずここを意識させる動線計画とし、このカマドが引き立つシンプルなデザインで全体を構成しています。左官職人により丹精を込めた手仕事として施工され、使用者によって愛情を込めて日々磨き上げれらていく。この黒きカマドから立ち上がる煙が、地域の復興の息吹となるよう願いを込めて計画をしました。


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計画について

計画地は、野上野地区内にある人気の菓子店「夢の里やながわ」の向かい側に位置し、北側には「桂谷寺」という由緒あるお寺があります。施設と桂谷寺、夢の里やながわの3者の相乗効果によって野上野の集客を目指そうとされています。この場所は以前、地元の建設関連会社が資材置き場として利用されていましたが、地域の取り組みのために快く明け渡され、地主様の理解も得てこの場所での建設が実現しました。こうした地域住民の協力無くしてはこの計画は実現することはなかったといえます。当社としては、自ずとこうした地域の方々の心意気に応える計画にすべく、身が引き締まる思いで計画に着手しました。


計画としては、コストバランスを考え、既存の菓子店の建物と同調する箱形の形態を志向しました。2棟の建物は同程度のボリュームとなることから互いを意識し合う正対する配置とし、この場所での一体化を意図しています。南側外観は、開口部と木の壁面のプロポーションを重視したファサードとしています。木部は丹波市産の杉材を使用しています。東側は駐車場からのアプローチサイドであり、木の列柱が開放的な軒下空間を構成し、来訪者を建物全体で迎え入れるような構成を意識しました。この軒下空間は、地域住人が特産品を持ち寄る朝市に利されたり、人が集まり交流する場となることを願ってデザインしています。こうした中間領域は、建物の内部と外部、施設と地域の環境の境界を 曖昧にし、建物(地域)と来訪者の隔たりをなくしてくれる効果を生みます。木の外壁の質感とこの構成により、箱形のシンプルな形態の建物でありますが、どこかやさしい親しみのある外観を呈しています。

内部も外部と同様にミニマムな表現を心掛けました。木の柱、木の壁、漆喰の白い壁、天井のボリュームの中に木の柱、木の壁、木のテーブルや椅子が映える。室内には木の香りがほのかに漂い、来訪者を癒してくれます。これら構造材、内外装材、家具に至るまで丹波市産の杉材をふんだんに使用しています。この施設で出される飲食メニューや物販品は、栗や小豆、黒豆といったこの地域の特産品が使われています。こうした地域資源の連携と活用により、集落内に経済効果を生み出し、循環型のまちづくりを目指す上で、この建築そのものが地域活性化のプロモーションのショーケースとなるよう意図しています。


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ゆめの樹今後の展望



施設は平成28年8月7日にオープンしました。施設の飲食スペースでは、地元産の黒豆ごはんや小豆を使った赤飯、同社が手掛けた栗園の栗を使用したメニューを提供されています。また物販スペースでは地元の特産品、同社が開発した農産加工品、栗の木を使ったプロダクトなども販売し、6次産業化の促進と雇用の創出を目指されています。この拠点施設は、栗の生産現場と㈱やながわの栗加工場と連携しながら、野上野地域内で丹波栗の生産・加工・販売の6次産業化を実現し、丹波県民局、丹波市、JA丹波ひかみ他とも取り組んでいる「丹波栗の郷づくり」を目指すのも大きな目的の一つとなっています。

現在、野上野地域には丹波栗が約850本栽培されていますが、栗園の敷地は観光農園が閉園し原野化していた所を同社が平成24年に整備(写真上)され、栗園としてよみがえりました(写真中)最初の年にたった一つ実った栗が下の写真で、この実が同社の夢の種となりました。
(写真提供/株式会社ゆめの樹野上野)

また、兵庫県の面積の67%が森林で、その森林のスギやヒノキは伐採の時期を迎えています。しかしながら木材の利用が減っており、伐採・植林・保育の循環が滞っているという実情があります。このまま木材の利用が減少すれば、山が荒廃し、森林の元気がなくなってしまいます。丹波市産材や兵庫県産材を使用することは、そのサイクルを促し山を守ると同時に、耐久性にとんだ建築物を提供できることにつながるのです。

施設の売り上げは、自治会を通じて地域に還元されます。今後は施設での利益等をもとに、新植を進め、生産基盤を充実させていく予定です。そして、その栗の木を使ってのプロダクト等を更に開発、販売し、丹波産のスギ・ヒノキ材の普及とともに木づかいとしての試みも継続的に広げていきたいと考えられています。このように地域資源の有機的連携が、化学変化ともいうべき新たな価値を生み出し、その価値が更なる価値の連鎖を呼び起こしていく。それが丹波地域への経済効果の広がりとなり、好循環に繋がっていくことが期待されています。

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設計者コメント

「地域経済循環創造事業交付金」交付申請のためのマスタープランの作成、オープンまでに時間がない中、計画から施工まで非常にタイトなスケジュールでしたが、地元地域の先導的な取り組みに対して、何とかお力添えをしたいという一心で駆け抜けたプロジェクトでした。比較にはなりませんが、手法として東京オリンピックの新国立競技場と同様に「設計施工」による体制で取り組まないと実現できないプロジェクトであったと思います。コストありき、工期ありきで、いかにデザインのクオリティーを保てるかが問われていました。

計画としては、株式会社ゆめの樹野上野様の取り組みに沿うように、建築そのものも地域の活性化をもたらし、地域振興に寄与できる建築でなければならないと考えました。当初よりおくどさんを使った飲食メニューを提供されたいとの要望がありましたので、それを最大限いかせるコンセプト、プラン、デザインを模索しました。おくどさんを左官仕上の伝統工法でつくること、内装はクロスなどの建材ではなく自然素材の漆喰仕上としたい、床はコストダウンを図るためモルタル仕上とすることなどから、素材としての主役は、地元丹波市産の木材に加えて左官仕上であり、それら双方が引き立てあえる内外装のデザインを目指しました。奇をてらうことなくシンプルなデザインとし、その中にもどこかやさしい素朴さを表現することに努めました。

計画としては、コストバランスを考え、既存の菓子店の建物と同調する箱形の形態を志向しました。2棟の建物は同程度のボリュームとなることから互いを意識し合う正対する配置とし、この場所での一体化を意図しています。南側外観は、開口部と木の壁面のプロポーションを重視したファサードとしています。木部は丹波市産の杉材を使用しています。東側は駐車場からのアプローチサイドであり、木の列柱が開放的な軒下空間を構成し、来訪者を建物全体で迎え入れるような構成を意識しました。この軒下空間は、地域住人が特産品を持ち寄る朝市に利されたり、人が集まり交流する場となることを願ってデザインしています。こうした中間領域は、建物の内部と外部、施設と地域の環境の境界を曖昧にし、建物(地域)と来訪者の隔たりをなくしてくれる効果を生みます。木の外壁の質感とこの構成により、箱形のシンプルな形態の建物でありますが、どこかやさしい親しみのある外観を呈しています。

建物が完成し、グランドオープンの3日前に地域の方へのお披露目というかたちでプレオープンのセレモニーが行われました。そこでの地域の方々の笑顔に触れたとき、このプロジェクトに関わりあえたことの充実感を覚えました。

当社では、建築を設計することはすなわちコト(物語)づくりであると考えています。設計や建設のプロセスの中で生まれる物語、完成後建物が使われていく中での物語、そのコト(物語)づくりづくりに参加できたことは本当に幸せであったと感じています。



※ARCHITECTURE STORY 11内では、「おお、丹波よ!TAMBA/丹波市商工会編の中の『丹波が輝く未来へ』(柳川拓三様/株式会社やながわ 代表取締役・株式会社ゆめの樹野上野 代表取締役専務)」の玉稿より一部を引用させていただいています。

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