取締役
社長補佐
吉住 春代
創業者である義両親と夫 俊一を支え
るべく、昭和52年に結婚後も続けて
いた保育士の仕事を辞め、吉住工務
店に入社。2人の子どもを育てながら
経理業務に従事。現在は社長補佐と
して、裏方業務を支えている。
1975(昭和50)年11月、勤務していた保育園の園長先生のお世話で俊一と見合い結婚をし、吉住家の人間になった。のんびりした農家育ちの私にとって、創業者の義父が絶大な権威を持つ商家の暮らしには、戸惑うことも多かった。はじめのうちは続けてもよいと言われていた保育士の仕事も親の意向で辞めざるを得なくなり、仕方なく辞めた。途端に会社の手伝いをするように言われ、保育士の仕事に未練を残したまま1977(昭和52)年11月、吉住工務店に入社することとなった。
学生時代に商業関係の勉強をしたこともない私にとっては全くの未知の世界。年下の先輩事務員さんに教わりながらの仕事もなかなかつらいものだった。取りあえず簿記を勉強しなければと思い、商工会の簿記教室へ行き、高校生に混じって全商簿記3級の試験を受けたのを皮切りに、大学の通信教育で商経科の単位を履修し、その頃新たに創設された建設業経理事務士の資格を3級、2級、1級と順次取得していった。保育園児だった子ども2人を残して、スクーリングのために10日間ほど家を空けたり、夜間の簿記教室やコンピューターの教室に通ったりもしたが、姑に理解があり、家事や子どもの世話を引き受けてもらったお陰で、やりたいことを続けることができた。
私が入社した頃の会社の帳簿は、経費明細帳や工事台帳、在庫管理帳などがあるにはあったのだが、いわゆる複式簿記になっていなかったので、集計した数字も正しいのかどうか検証することができない状況だった。義父が「帳面では儲かっとるのにお金が残っとらへん」というのはもっともなことだった。
経理事務の環境はそろばんと手書きの時代から、計算機とワープロという時期を経て、コンピューターの時代へと移っていったが、義父は新しいものを取り入れることにはとても積極的で、1985(昭和60)年頃には一般に先駆けて、高額の経理専用コンピューターを導入してくれた。日々の伝票を入力すれば、総勘定元帳から工事台帳まで、正確に計算されたものがプリントアウトできるようになり、この頃から会社としての経理体系が徐々に整ってきたように思う。
工事代金の支払いは、支払日に集金に来られた業者さんと値段を交渉し、それから小切手や約束手形をきって支払いするというような段取りの悪い大変な業務だった。小切手をきっていたら途中で資金が足りなくなり、慌てて信用金庫に駆け込んで借り入れをしたということもあった。しかし、それも今では懐かしい思い出。請求書を前もって担当者がチェックし、支払い確定金額を先方に通知し、支払日にはそれが先方の銀行口座に入金されるというような今の形ができあがるまでには、随分年月が掛かった。
この支払い業務一つをとっても、経理部門だけでこのような改善を進めることはできないことだった。工事の担当者が工事の工程管理や安全管理をしながら、原価管理の面でもきちんと値決めをして発注し、期日を守って請求書チェックを進めてくれるお蔭で、経理部門は支払い業務を円滑に遂行できている。
同様に、どの業務についても部門間や社員どうしの連携がなくてはスムーズに進んでいかない。そういった意味でも、I S O品質マネジメントシステムの認証取得に向けて取り組んだことや、その後、維持改善を繰り返しながら構築してきたマネジメントシステムは、吉住工務店の骨格をしっかりと支えるものになってきたと感じている。
1991(平成3)年、バブルが崩壊し日本経済は大混乱に陥った。しかし、幸いなことに弊社は値上がりを見込んだ株式投資や不動産投資を一切していなかったため、その影響をほとんど受けずに済んだ。そして、適正申告、適正納税に努めてきたことで、1997(平成9)年には税務署より優良申告法人の表敬を受けることができた。これは法人企業の3%程度しか受けられないもので、大変名誉なこととうれしく思ったものだ。それ以後、公共投資が減少して受注が厳しくなり、営業損益が赤字になることが何期かあったが、余裕のある時期に加入していた保険を解約するなどして損失を補填し、最終の当期純利益を毎年きちんと出して納税してきた。最初に優良申告法人の表敬を受けてから20年、ずっとその立場にいられたことは、弊社を引き立ててくださったお客様や協力いただいた業者の皆様、そして社員の頑張りのお蔭であると、深く感謝している。
時代はめまぐるしく変化し、会社の舵取りは益々難しくなってきたように思う。さまざまな面で私たちは対応できなくなってきた。そろそろ若い人たちに会社の未来を託し、私は一歩引いたところで吉住工務店の行く末を見守っていきたい。吉住工務店に入社して40年、お世話になった多くの方々に、この場をお借りして心よりお礼申し上げたい。