1927年の開業より地域に愛されてきた歯科医院で、2001年に現在の3代目院長が引き継がれ発展してこられた。しかしながら、患者数の増大に伴って医院が手狭になり、現医院の施設ではとても理想とする医療を実現できないという思いから、新たな施設の計画に踏み切られた。
南側の川沿いに広がる山里のロケーションを活かした平面構成で、スタッフと患者とのふれあい、院内にあふれる「スマイル&コミュニケーション」をコンセプトに設計。初回打合せから建物完成までに2年、新築前に構想された改装計画を含めると3年を要し、紆余曲折もあった。しかし、そのなかで常に感じていたのは、院長の情熱と、いきいきと働くスタッフのピュアな美しさだった。設計者として、それに何とか応えたかった。
デザイン重視でも、クライアントの意向に従うだけの単なる箱づくりでもなく、この医院にかかわる皆でつくり上げたと実感できるこの建物。共につくり上げた医院を皆で大事に使っていく…そうしたシーンが頭によぎり、医院の発展が目に浮かぶようで、そこに少しでも力添えができたことを大変うれしく思う。
このプロジェクトでは、地域医療の問題点、地域コミュニティの大切さ、医院と地域の関係性など、そこから生まれるものについて多くのことを考えさせられ、経験させていただいた。建築とは単に美しいものや機能的なものをつくることではなく、一つの建築がつくられる背後にあるストーリーに、誠実に応えていくことが最も重要であると、改めて感じたプロジェクトであった。
設計担当:澤田伸一
施 主:医療法人社団わく歯科医院
建築場所:丹波市氷上町成松
主要用途:歯科医院
工事種別:新知己
竣 工 年:2014年
施工担当:湯藤龍太
設計担当:澤田伸一
構造規模:木造 地上2 階建
敷地面積:998.23㎡
延べ面積:461.55㎡
受 賞 歴:歯科医院デザインアワード2015グランプリ
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