兵庫県篠⼭市に建築された企業内託児所です。
クライアントのフルヤ⼯業株式会社は、創⽴97年(⼤正7年創業)を数える篠⼭市を代表する企業です。
⼥性従業員の仕事と育児の両⽴、仕事と⽣活の調和「ワーク・ライフ・バランス」⽀援を⽬的とし、さらに安定的な雇⽤につなげることを⽬指し、
福利厚⽣施設として敷地内に事業所内保育施設を建築することを数年前から構想されており、2015年に計画が具体化し急ピッチで設計が進められ、
今秋完成しました。⼯場の敷地の中、⽩いフォルムが陽光を浴びて美しく輝き、その中で⼦供たちがいきいきと⽣活しています。
建物名称 | サボテンハウス(フルヤ⼯業株式会社託児所) |
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発注者 | フルヤ⼯業株式会社 |
所在地 | 兵庫県篠⼭市 |
用途 | 託児所 |
工事種別 | 新築 |
規模構造 | ⽊造(SE構法)/平屋建 |
敷地⾯積 | 405.33㎡ |
延床⾯積 | 99.98㎡ |
竣工年 | 2015年 |
備考 | 厚⽣労働省兵庫県労働局認定/事業所内保育施設 |
この計画のクライアントは、兵庫県篠⼭市に本社がありプラスチック部品の製造を⼿掛けるフルヤ⼯業株式会社である。 難易度の⾼い様々なプラスチック製品の成型技術を待たれており、中でもゴムの弾性とプラスチックの可塑性を併せもつエラストマー成型は、 「プラスチック=硬いもの」というこれまでの常識を覆した画期的な成形材料で、腕時計のG-SHOCKのバンド等にも使われており、 ⼀般にもなじみ深い製品のパーツも数多く⼿掛けられています。
フルヤ⼯業の従業員数は122⼈で、そのうち⼥性が63⼈と半数以上を占める中、この会社では、⼥性従業員の仕事と育児の両⽴、 そして仕事と⽣活の調和『ワーク・ライフ・バランス』⽀援を⽬的とし、 さらに安定的な雇⽤につなげることをめざし、 福利厚⽣施設として事業所内に託児所を設けることを数年前から検討されていました。
現在⽇本では、地域によって保育園の確保が⾮常に難しくなっていて、⼦供が⽣まれる前から「保活」に追われる夫婦も増えています。 会社内に託児所があればという思いがあっても、場所、建設費、運営・維持など様々な⾯から実現させるのは容易ではありません。そのような中で、 2014年8⽉に政府により「⼦ども・⼦育て⽀援新制度」が成⽴し、消費税増税の時期を踏まえて2015年より施⾏されるという追い⾵もあり、降⽮社⻑の強い思いから計画が本格化しました。
最初にクライアントにお会いしたのが2月で、その時点では計画はまだ漠然としたものでしたが、そこから再度お会いした3月末には、
託児所のオープンを11月にという要望があり、計画が急展開していくことになりました。
補助金の申請やオープン準備期間を考えると建築計画に費やすことができる時間が非常に少ないことがこのプロジェクトの課題でした。
クライアント側も補助金の申請、運営管理の方向性など手探りの中苦慮されていましたが、降矢社長の長年の思いに応えるべく、計画は急ピッチで進められました。
補助金(厚生労働省 事業所内保育施設設置・運営等支援助成金)を得るために事前協議があり、認定審査申請時には確認検査済証が必要とされていました。
補助金の認定審査に2か月を要することから、3か月の工事期間、開所の準備期間を考えると、実質の基本設計、実施設計、見積提示、工事請負契約までの期間は1ヶ月程度しかありませんでした。
まずは補助金の事前審査に対応するため早急な計画の決定が必要となりました。この短期間でのコスト調整、それを踏まえての設計変更等の対応は、一般の設計事務所等では難しく、設計施工一貫体制のメリットをいかし
、設計段階での積算部門や工事部門との連携による組織力活用により、コストコントロール、事業スピードの短縮を徹底しました。
計画は短期間であるものの、模型・パース等も通常通り作成し、⽴体を確認しながら設計しています。形態がシンプルであればあるほどプロポーションなどが重要となるため慎重な考察が必要となります。 限られた設計期間ではありましたがクライアントにも模型等を使ってプレゼンテーションさせていただき、理解をいただきながら計画は進められました。
この建物は、計画途中でクライアントより「サボテンハウス」と名づけられました。
サボテンには、フルヤ⼯業の社訓が表現されています。太い⼤きな幹があり、そこへ枝葉を芽⽣えさせ、これもまた⼤きな幹となる。⻑年培われてきた技術をもとに、新しい技術を次々に⽣み出され、あらゆる業界、
より広⼤なフィールドでモノづくりの可能性を開かれていく。様々な業界から寄せられる多種多様なオーダーを糧とされつつ、サボテンは夢を形に変え、⼤きく成⻑されてきました。
ロゴマークは、フルヤ⼯業社内の公募により、ある⼥性社員の案が採⽤されました。
サボテンがリズミカルに並ぶロゴマークは、託児所内の園児たちの元気な愛らしい姿と相まって、⼦どもたちの無限⼤の夢、可能性が表現されています。
より少ない⼈数で管理できるよう、死⾓をつくらないことに配慮し、全体がワンルームのような構成をとっています。厚⽣労働省の補助⾦の基準に準拠させるため全体を100㎡未満とし、
その他必要とされる各部屋の⼤きさ等もこれに沿って計画されています。その中でコストバランスを考えながら、できるだけ開放感があり、⼦どもたちがのびのびと⽣活できるような空間を確保することを意識しました。
南側は奥⾏のあるウッドデッキを設け、床⾯の連続から平⾯的な広がりが得られています。
断⾯的には、室内は屋根勾配なりの天井⾼さのある開放感のある空間となっていますが、保育室等がスケールオーバーとならないよう、トイレや調理室のボリューム、⾼さ関係等を配慮しました。南側はウッドデッキに⾯して
⼤きな開⼝を取っていますが、深い庇があり、夏場の直射光を遮り、冬場はできるだけ部屋の奥まで⽇射を導くよう庇の出の⼨法を調整しています。また、北側のハイサイドライトは電動で開閉し、シーリングファンと連動しながら
夏場の熱い空気を逃がすなど、⾃然な空気で満たされ、光にあふれた⼼地良い室内環境が得られています。
この託児所も⼀般の⽊造住宅と同様に建築基準法における4号建築物で、構造においてその法的適合性の審査を省略できることから、その責は施主と建築⼠にゆだねられているのが現状で、
建築確認申請時に構造計算を必須とされていません。しかし、当社で設計施⼯をしている建物は4号建築物であっても、鉄⾻造やRC造、⼤規模建築物と同じ⼿法(許容応⼒度計算)により構造計算をしています。
「⼈の安全は、耐震性能や耐久性能などの安全性能によって守られるべきである」との考えに基づき例外はありません。
この建物は、⽊造の平屋建ての⼩さな託児所ですが、限られたスペースの中、⼦どもたちにのびのびと活動してほしいという思いから、全体がワンルームとなる開放感のある構成とし、
空間を確保するため構造⽤集成材によるラーメン構造にて構造計画をしました。当初は、6.45M×15.5Mの全く柱のない⼤きなワンルーム空間の中に、各部屋が構造に関係なく置かれている構成をとっていましたが、
全体のコストダウンを図る必要性から中間に柱を⼊れ、梁成を抑えるなど躯体の材積を抑えることを優先しました。
外観は、プロポーションの良いシンプルなフォルムが際⽴つよう、壁、屋根とも同⾊とし、⽩いガルバリウム鋼板の仕上げとしています。⼀般的に⽩い屋根は、
汚れ等の⾯からクライアントにはなかなか受け⼊れていただけませんが、模型等からフォルムの美しさを理解していただき、クライアントに快く採⽤いただけました。
南側はハイサッシとしていますが、⽇射をコントロールする深い軒の出があり、軒裏を逆勾配のテーパーを付けた納まりとすることで、よりシンプルに⽩いフォルムのみで表現される外観となることを⽬指しました。
南側のウッドデッキは保育⽅針やコストから無垢材等とはせず⼈⼯⽊材とし、メーカー規格品を採⽤しています。規格品特有の質感やデザインが外観をそこねる懸念から、その選定を慎重に検討し、
⼀部をアレンジしてつくり変えるなど、全体ととしています。⼀般的に⽩い屋根は、汚れ等の⾯からクライアントにはなかなか受け⼊れていただけませんが、模型等からフォルムの美しさを理解していただき、
クライアントに快く採⽤いただけました。
南側はハイサッシとしていますが、⽇射をコントロールする深い軒の出があり、軒裏を逆勾配のテーパーを付けた納まりとすることで、よりシンプルに⽩いフォルムのみで表現される外観となることを⽬指しました。
南側のウッドデッキは保育⽅針やコストから無垢材等とはせず⼈⼯⽊材とし、メーカー規格品を採⽤しています。規格品特有の質感やデザインが外観をそこねる懸念から、その選定を慎重に検討し、
⼀部をアレンジしてつくり変えるなど、全体として違和感がないようにバランスを意識してデザインしています。
内装は、クロス、⻑尺シート、既製品の建具など規格品を多⽤した仕様としています。その中で天井のみ杉の無垢板張りとしました。あえて節のある材を使うことで壁、床などの規格品で構成された無機質な均質感を軽減し、
空間にやさしさをもたらしてくれています。
カラーコーディネートとして、壁は⽩を基調とし、⾯によって淡いイエローと淡いグリーンのクロスを張り分け、開⼝部等には同⾊のグリーンのカーテンを設け、⻩⾊の壁がさりげなく際⽴つようにしています。
この⻩⾊の壁の開⼝の奥に⾒えるトイレの腰壁には、カラーバランスを考え薄いブルーのタイル貼りとし、イエローの⼿すりをアクセントとしていかせるようにしました。全体として、上品なかわいらしさのあるコーディネートにとどめ、
それ以外は運営される保育⼠の⽅にゆだねられるようシンプルな内装を⼼がけました。
また照明器具は、災害時等にガラスが割れて怪我しないアクリル製のシェードを持つ製品を選択。その他建具等の指詰め⽌措置など、安全性にも配慮しています。
「この託児所で育った⼦供たちが時を経て会社に就職してくれる。そのようなカタチができれば本当にうれしい限りです」計画の途中で降⽮社⻑が⾔われた⾔葉から、この建物に描く企業の⼤きな夢を⾒た気がしました。設計者としてその夢の実現にスピードとクオリティを持ってお応えしたつもりでしたが、どこまでできたのか…。完成した建物を前に⾃問する⽇々ですが、建物の設計という仕事は、クライアントやそこにかかわる⼈々の夢に乗せられて、⼀緒に夢を追いかけることができる幸せな仕事であると改めて感じました。
託児所の開所に伴い、産休中だった⼥性と、同社を⼀度退職した⼥性の従業員2⼈が復職され、現在、1歳児計3⼈が⼊所されています。今後ますます⼈数が増え、託児所内に⼦どもたちの愛らしい声があふれ、にぎやかになっていくことでしょう。そしてまた、企業としてもますます発展され、夢が実現されていく…。そこにわずかながらお⼒添えができたことを⼼からうれしく思っております。