兵庫県に計画中の建物で、自己所有林を製材し利用する住宅。省CO2・ゼロエネルギー化住宅のプロジェクトです。
建物名称 | S-Project |
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発注者 | 個人 |
所在地 | 兵庫県 |
用途 | 個人住宅 |
工事種別 | 新築 |
規模構造 | 木造/地上2階建 耐震等級2 |
敷地面積 | 120.16m² |
延床面積 | 95.02m² |
竣工年 | 2015年予定 |
備考 | H26 国土交通省「住宅のゼロ・エネルギー化推進事業」採択 |
H28 「ひょうご木の匠 木の住まいコンクール」優秀作品(農政環境部長賞)受賞 | |
担当 | Director 藤田瑞夫 |
Designer 吉住工務店 | |
Estimator 杉山栄一 |
木 - 材 = | 才 | 「才」:ある事に秀でた能力 ∴『才の家』
建築地の150メートル程北側に今回建築されるクライアントが所有する桧と杉の林があります。
この木を利用することで、この木々が保持していたCO2が移動する事なく地元に留まります。
つまりは、環境負荷のかからない最も地球環境にやさしい住まいづくりとなり、地域の先導的モデルとして、またパッシブデザイン的な建築手法を駆使することにより、経済産業省における「平成26年度住宅のゼロ・エネルギー化推進事業」の採択を受ける挑戦をしています。
今回の『才の家』は自己保有林を利用した省CO2の実現とパッシブデザインを利用した、エネルギーをあまり使わない秀でた才能を持つ住まいの提案をしています。
パッシブデザイン手法として、軒の出を調整する事で夏の強い日差しは取り込まず、吹抜けを利用する事で冬の日差しを多く取り込む提案を行っています。
その提案を実証するために、住宅模型を作成してスポットライトの光で夏至と冬至の太陽光の入射角を再現し、日射シュミレーションを行いました。
模型を使い、目で見て体験していただく事でよりリアルにパッシブデザインを感じてもらいクライアントにこの住宅の快適性を理解していただく事が出来ました。
平成25年度の「住宅のゼロ・エネルギー化推進事業」において『地域に根ざしたゼロ・エネルギーハウス』というコンセプトで丹波市春日町のSN-HOUSEが採択を受け、平成26年3月に完成しました。それを受け、引き続きゼロエネハウスを地域に推進していく上で、今年は「地域に根ざしたゼロ・エネルギーハウスVer.2」として、より進化した形でのゼロエネハウスを提案致しました。
建物の断熱性能の向上や高性能の設備機器の導入はもとより、地産地消による省エネ化の取組においては、計画地からすぐ近くの自己所有の山林の木材を建築材料として使用することで地球環境に対して究極にやさしい家づくりの手法を受け入れていただきました。
また長期に及ぶ設計期間や工事期間の中で、当社の先導により住空間の温熱環境の基本を勉強し、住まいながら快適な住環境をつくり出す工夫ができる基礎力を身につけていただきながら設計を進めていきました。
今回の計画では、近隣建物との距離が近く、前面道路側以外は囲われた形状の土地である為、通風・採光を確保する為に垂直方向の空間構成を取り入れる必要がありました。吹き抜けの軒の出を利用して太陽光の入射と通風をコントロールしています。
冬場の寒い時期には吹き抜けを有効活用して太陽光を多く取り入れる事により、暖房の利用を減らし、パッシブを利用した省エネルギー化を図っております。
1. 冬季において南側開口部より日射がキッチンの前まで差し込んでいることが確認できます。(図1)
また、夏の暑い時期については、軒の出をコントロールする事により、室内に日射を取り込まないように計画しています。
2. 夏季において南側開口部の日射が室内に入ってきていない事が確認できます。(図2)
3. 1階南側の窓から入った風が北側勝手口より排出され、南側開口部から入った風が2階クローゼット北側の小窓より排出されます。
また、2階に溜まった暖気が北側小窓から排出されることにより、室内が負圧となり南側開口部から室内に風が入り、室内の温度をコントロールしています。(図3)
南側の窓の大きさを(南側は大きく、北側は小さく)変えることにより、風を多く取り込み排出する際に絞ることにより風速が生まれ、より多く風の流れを生み出すことでなるべくエアコンに頼らない快適な環境を計画しています。(図4)
地域生産地域消費により、CO2の固定化、輸送過程におけるCO2の排出量削減等が見込まれ、地球温暖化の抑制に貢献しています。
本計画においては、建築地近くの保有林を可能な限り積極的に使用する計画をしています。
(次項別表使用可能材積表)
その事により、保有林が保持していたCO2が建材となり今回の建築に利用する事により、産出した地から排出されるCO2が最も少なく済む計画となります。また、木材の価値を高める利用により地域森林資源の価値を高めることが出来ます。
建築主は、「丹波産材利用促進事業」の補助金等の優遇措置を受けることができ、事業者と共に勉強しながら住宅の省エネ化に積極的に取り組んでいただきました。
今回の計画は保有林を利用する事で、積極的にCO2排出を抑制できる最も有効的な取り組みで地球環境規模での貢献度は低いが理想的なケースです。こうした地域に根ざした省エネ住宅のプロトタイプができることで、省エネ住宅の供給量の増加が見込まれ、さらなる地球温暖化の抑制に貢献できるといえます。
住宅の省エネルギー化についての学習、建築的手法による省エネルギー化、保有林の有効活用による省CO2化の取り組みと、webプログラムによる住宅の一次エネルギー消費率の計算による裏付け等の交付申請を行い、今回の取り組みの有効性が国土交通省に認められ、事業採択を受ける事ができました。
今回は樹齢約100年の保有林を伐採しました。建築主の生まれる前からそこに有り建築主との関わり合いのある木を住宅の構造材、仕上材に利用する事で非常にメモリアルな住まいづくりになりました。また光合成をしなくなった木を間伐する事に依り、山に日が当たり他の木の成長を促し、山の環境を保全していく事にもなりました。国産材の使用率が3割程度しかない現状に対しても非常に有意義な取り組みで、今後の日本の林業や住まいづくりの見本となる計画であると感じました。
11月吉日『才の家』の地鎮祭と着工式を執り行いました。
着工式では施主様をはじめ、建築に携わる関係業者が一堂に集い、今回の建築のコンセプトを全員で確認を致しました。施主様と作り手側の顔を合わせる事でどんな人の家づくりをしているのか、どんな人が家づくりをしてくれているのかが分かり、住まいづくりにおける意思の疎通を図っています。
工事準備も整い、いよいよ着工。
きれいに並べられた配筋の様子、ベースのコンクリートを流し込む為、規則正しい姿(下部写真)はもう見る事が出来ません。この規則正しさが力を均等に伝えてくれる重要な役割を果たしています。
建方の最中は特にトラブルもなく順調に進んでいき、昼過ぎには登り梁も上がりました。棟梁も納まり、無事上棟しました。
現場は桧特有の良い香りが立ち込めており、伐採時に香っていたそれを思い出しました。
上棟後に2階から山の方向を見ると、まさに伐採した現場が見え、あの場所の木を使っているのだと再度実感しました。CO2 は目で見ることは出来ませんが、確かにあの場所で光合成をして蓄えられたCO2が今またこの場所に蓄えられるのだと感じ、改めて今回の計画がとてもECOであり、構造材の過半を外国材に頼っている現代の木造建築において理想的な建築の姿だと再認識しました。
様々なお打合せや現場での確認などの工程を経て、引き渡し日を迎えました。クライアントからは心温まるお言葉をいただくことができました。
今回の計画は、クライアントのご先祖様が植えられた木を伐採し、製材して柱や梁、床や天井材などの仕上げ材に利用しています。この木を通じて、親から子へ、子から孫へと幾世代にも歴史が受け継がれていくというストーリーが生まれました。節もあり、木目も揃っておらず、色目にもバラつきがありますが、それらの特徴もまたクライアントの材料への思いに繋がっています。
完成した建物内部には桧の良い香りがただよい、足の裏からは木の温かみを感じ、視覚だけにとどまらず嗅覚や触覚にも山の木の存在が伝わってきます。
壁材に用いた漆喰で調湿やにおいの吸収・分解をし、さらに構造材や仕上げ材の桧が持つ抗菌作用などでも空気環境に配慮しています。
設えについては、家具や調度品とのバランスを考え、シンプルな素材感を活かした設計にしています。天井材に用いた桧の温かみのある雰囲気と壁材の漆喰や現しにした梁が、空間にリズムと安らぎをもたらしてくれます。
一見すると山の木と漆喰を用いた昔ながらの住宅に見えるこの建物ですが、「才の家」というネーミングにもあるとおり、才能を持った住宅となっています。
その一つが前文に記述している「国土交通省のH26年度住宅のゼロ・エネルギー化推進事業」の採択です。それ以外にもCASBEEや温熱計算プログラムによりその性能の裏付けをおこなっています。
CASBEEの評価結果では「Aランク(大変すばらしい)」を取得しましたが、地域生産、地域消費によるCO2固定化や、輸送過程におけるCO2の排出量の削減といった、評価結果だけでは推し量れない内容がこの「才の家」には盛り込まれています。
また、建物の設計をするにあたり重要なファクターとなる安全性については構造計算プログラムにより許容応力度計算をおこない、大きな吹抜空間や、火打梁を設置せずに勾配天井を実現しています。構造計算を行うことで、巨大地震や台風などの突発的な自然災害に対し、その中で暮らすクライアントを「守る」という、住まいが本来持つべき性能を確保しました。
今後も当社では、感覚的に「快適・安全であろう」と設計していたことを数値化し、確認することで快適性や安全性を実証します。また、意匠性の高い建築の提案が出来るよう日々研鑽し、より多くの方々に満足・納得していただける建物づくりを目指してまいります。