築約200年の古民家を改修して、新たな住居として生まれ変わった建物です。床の無垢材や壁、天井の漆喰仕上げ等の自然素材にこだわり、既存のかたちを生かして再生。 「この建物をこわしたくない」というお施主様の思いのこもった建物は、新しく施した自然素材の経年変化と共に、さらに思い出を重ねながら生き続けていきます。
建物名称 | SS-HOUSE |
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発注者 | 個人 |
所在地 | 兵庫県丹波市 |
用途 | 個人住宅 |
工事種別 | 古民家再生リノベーション |
規模構造 | 木造/平屋 |
床面積 | - |
竣工年 | 2014年 |
備考 |
クライアントとの出会いは平成26年2月に当社丹波展示場にご来場していただいたことから始まりました。
クライアント夫妻の当初のご相談は築200年の母屋を解体し、親世帯との2世帯住宅への建替えをしたいということでした。母屋は丹波市の山間の村に時が止まったままのような状態で佇んでいました。
敷地は道路より一段低く水はけが悪いことから地面を上げたいともお考えで、それらのご要望を踏まえ、私たち吉住工務店は2世帯住宅の新築プランと解体費用と地上げ費用を含めた資金計画を作成し、ご提示させていただきました。
しかし、予定よりもコストが掛かることや、現在のお住まいよりも狭くなることから計画の合意には至りませんでした。それならば既存母屋は解体せずに残し、敷地の空きスペースに子世帯のみの住宅を新築するご提案をしました。しかし、既存建物の老朽化や世代交代した際の母屋の利用方法などを考えると母屋を残すことにより新たな問題が発覚し、計画がなかなか進まない状態でした。そんな時、敷地調査に訪れた際にクライアントのお父様にお話をうかがったことを思い出しました。
6代目であるお父様は茅葺屋根の上のトタンを5年ごとに業者に依頼しメンテナンスをされてきました。そこで、解体するなら古材を売却できないかと専門業者に相談したところ、保存状態が良いので是非ともリフォームで提案したいということで、図面を描いてもらったそうです。しかし、クライアントは古い家にお金をかける気はなく、リフォームを検討する余地はなかったといいます。せっかくここまで手を掛けられているので、思い切って古民家再生リノベーションをご提案しました。当社で施工しました築100年の歯科石井醫院の写真をご覧いただきながら、この家を再生させることを丁寧に説明しました。乗り気ではなかったクライアントがここにきてようやく古民家再生に興味を持ち始めた瞬間でした。
その後、ご両親と奥様と打ち合わせをさせていただく機会があり、母屋を活かしても素敵な空間になるのであれば賛成しますと心の内をお聞きしました。
奥様、ご両親と私たち吉住工務店でクライアントに説明を行い、納得をしていただきました。
古民家再生の計画がひとまとまりし、いよいよ解体工事がはじまりました。
築200年ともあり、傷んでいる所もありましたが、小屋裏や床下からは築200年とは思えないようなしっかりとした構造材が姿を現しました。
玄関先には6寸ほどの黒光りした柱があり、この柱はクライアントのお母様がヌカで磨いていたというお話もお聞きしました。古材の使い方や、新しい材料とのバランスや見せ方に苦労をしましたが、クライアントからは「すべてお任せしますので、この家を活かしてください」
とおっしゃっていただき、工事を進めていくことが出来ました。
また、屋根の長さや勾配が各方角でバラバラだったため、下地の調整にはかなり苦労をしました。
工事も無事完成し、いよいよお引き渡しの日がきました。
クライアントのお父様からは「こんな良い家になるとは想像もしていなかった。古民家再生リノベーションを提案していただいて、本当にありがとうございました。また次の世代にも家を引き継ぐことが出来ました。」と大変ありがたいお言葉を頂戴しました。またクライアントからも、「あの家がここまで良くなるとは想像もしていなかった。想像以上です。これでご先祖様にも顔向けができます」と、大変喜んでいただけました。
今回の計画では、新築と古民家再生という真逆な提案の中、クライアントは大変苦悩されたことと思います。クライアントが古民家再生を選択するにあたって、ご家族やご先祖様が大切に守り継がれてきた“歴史や建物への思い”という見えない力が働き、この古民家再生リノベーションが完成したように思えます。
モノがあふれる現代社会において、次世代に受け継がれるモノづくりの大切さに改めて気付くことができました。モノを大切にする気持ちを持ち続け、これからも人とモノとのかかわりに深く配慮し、大切にしていただける建物づくりをしていきたいと感じました。