ARCHITECTURE STORY

兵庫県篠山市/歯科医院兼住居/古民家再生リノベーション/2009年竣工

歯科石井醫院

築約100年の古民家を改修して、歯科医院兼住居として生まれ変わった建物です。
季節の移ろいが楽しめる庭園と、古民家の雰囲気でリラックスできる空間づくりがなされ、安らぎの歯科医院として地域で愛されている医院です。

建物概要

建物名称 歯科石井醫院
発注者 個人
所在地 兵庫県篠山市黒田
用途 歯科医院兼住居
工事種別 古民家再生リノベーション
規模構造 木造/地上2階建
延床面積 335.94m²
竣工年 2009年
備考  

Before & After

Before
After
Before
After
Before
After

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施工中エピソード

一世紀前の建物の再生について

約一世紀前の建築物であったために、建物にある程度の痛みがある事は想定されていましたが、解体を進めて行くうちに床下の大半、主に土台や柱の腐食がかなり進んでいた事が判明しました。
そこで、耐震性向上を計るため、建物外周部及び内周部の土台直下に基礎を新たに作成し、さらに補強を行う為、新たに配筋を行い床下全面にベタ基礎を施工いたしました。
室内側からも確認されていました屋根からの漏水に依り、瓦屋根を支えてた母屋や、垂木などの構造材についてもやり替えが必要と判断されたため、床下以外の構造材についても全面的に改修を行いました。構造体を一度スケルトンにし、既存構造材の一つ一つにチェックを行い、必要とされ部分に補強や材料の取替えを行い、基礎補強工事完了後も耐震性能確保のために予想以上の時間を費やしました。


建物を⼟台から持ち上げ、新たにベタ基礎を施⼯


解体時の構造体の様⼦

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プロフェッショナル

過去と現在を繋ぐもの

この建物は約100年前に建築され、地元地域の医療の場として長年に渡り愛されてきたもので、先祖代々守って来られ、現在までその姿を残して来ました。
この歴史ある建物を活かし、歯科医院の開業を行いたいと言う院長の決意や、丹波篠山の地に「やすらげる歯医者」を目指したいと言う思いにお答えするために、現代の建築技術と約一世紀前の地元の木材と線と面で構成される大工職人の方々の技に感動と敬意を持って、この建物に再び命を吹き込む工事を進めて行きました。
また、既存建物の雰囲気や当時の様子を現代に伝えるため、鬼瓦や瓦などをエントランスの壁に装飾として用いた事や、梁や柱を現わすことにより、現代と過去を繋ぐものになっています。
この再生された建物の佇まいや庭園の緑によって、新たにここを訪れる人々に愛される建物として再び存在し始めました。


当時の建て⽅の様⼦


約100年前の建物外観

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クライアントのコメント

現在、竣工後5年の月日が流れ、再生させて頂いた建物のご感想を石井広信先生(以後:院長)と奥様の石井麻水先生(以後:副院長)にお聞きしました。


(歯科 石井醫院 外観 平成26年4月現在)


(院長 石井広信先生)

◇院長先生が歯科医師になろうと思われたきっかけを教えてください。

院長:「良くも悪くも拘りが有り、細かい所まで気になるタイプで、とことん追求するタイプなので納得するまでやる性格です。歯科治療は特に精密さが重要なポイントで細かくやればやる程良い結果が出ます。その事が自分の性格に合っていたからだと思います。」


(副院長 石井麻水先生)

◇奥様も歯科医師でいらっしゃいますが、歯科医師になろうと思われたのは何故でしょうか

副院長:「実家も歯科医ですし、人の役に立ちたいという思いで歯科医になりました。家とかが好きで小さい頃は建築家になりたいと思っていました。ただ、理系が苦手で…。建築家になるのは諦めました(笑)」

◇日頃大切にしている事はどんな事でしょうか?

院長:「医療に携わっている事も有りますがせっかく『生』を受けたので、格好つけすぎかも知れませんが、世の為、人の為になる事をやりたいと思っています。勿論自分の為でもありますが、人の役に立てる事を大切にしています。歯を治療させて頂いて『ありがとう』と言われると良い仕事が出来たと嬉しく思います。」

◇先生のブログの中で『この建物で開院するのにはかなりの決断が必要でした』とお書きになられていましたがその決断とはどんな事だったのでしょうか

院長:「古民家再生は今でこそ多くなってきましたが、当時歯科医院では事例を見た事が無かったのと、一般的な医院は新しく建てて開院します。古い建物を利用するという事で、間取りの面も心配でした。元々医院であったとはいえ、内科だったので診療内容も使う部屋も形も違うので、本当に歯科として使えるのかが心配でした。またこの辺りはそれ程人口も多くありませんし、伝手もありませんでした。元々自分の祖父の家で子供の頃は夏休や冬休みに遊びに来ていましたが、知らない土地でよく知る人もいない中で開院するにはかなりの決断が必要でした。ただそれでも、地元の方で『おじいさんには良くしてもらった』などおっしゃって頂く方等もあり、開院後はすぐに受け入れて貰ったと思います。」

院長:「それに加えて、私の家内の実家も北海道で歯科医をやっていたので、そちらを継ぐか、こちらを継ぐかはかなり悩みました。」

副院長:「複雑な気持ちでした。北海道の病院も継いで欲しいと思っていましたので。」

院長:「ちょっと揉めましたね(笑)本当に悩みましたし、決断するのは大変でしたね。」

院長:「私の地元は淡路島で、ここ程田舎ではありませんでしたが、田舎者のコンプレックスがあったので絶対都会に住もうと思っていました(笑)」

◇大変なご決断をされて開院されることをお決めになられて、さらにこの古民家を再生しようと思われたのは、何故でしょうか

院長:「祖父が亡くなる前ぐらいから、名前を継ごうと思うようになっていました。でも古民家を再生しようとは思っていなかったですね。当時はここを更地にして新築の歯科医院を建てようと思っていました。私の妹に『壊すのはもったいない、きれいに直したら格好良くなるよ』と言われた一言で、古民家再生に興味を持つ様になりました。」

◇副院長はそのお話(古民家再生)をお聞きになってどう思われましたか

副院長:「古民家は前から興味があり素敵だと思っていました。さすがに元が元(かなり酷い状態)だったので、これはちょっと…。と思っていましたが、院長よりも私の方が興味あって古民家の事をパソコンで調べて院長に見せたりして…。」

院長:「それを見て格好いいなーと思うようになりました。それから古民家リノベーションの雑誌などを見るようになって興味がわきました。」


(歯科 石井醫院 夕刻の外観 平成26年4月現在)

◇建物の元々の状態がかなり酷かった部分も有りましたが、解体中や工事中の印象はいかがでしたか

副院長:「建物を構造体(壁や屋根を解体した骨組みの状態)まで解体したので、こんなにも解体しないといけないのかと思いました。」

院長:「お口の中もそうなのですが、ガタガタで酷い状態になると、治すのにも非常に手間もお金も時間もかかります。歯を残そうとせずに抜いてしまって治療をする事は簡単なのですが、歯が残せたとか、自分の歯で食べ物が食べられるといった喜びを感じて貰えるのと同様に、この建物もガタガタで新築した方が早かったでしょうし、お金も掛からなかったとは思います。それでもこの建物を残せた喜びは非常に大きかったですね。」

院長:「解体してみて解ったのですが、昔の建物は土の上に束石が置いてあって、その上に束が乗っているだけで、こんな簡単な造りで家が建っているのかと驚きました。畳を捲って、板を捲ると地面が見えていて、昔の人はこんな家でよく寒いと思わなかったのかとびっくりしました。」

副院長:「でも昔ながらの建て方はその風土に合った造りをしているんですよね。」

院長:「将来はより古い茅葺屋根の医院を建ててみたいと思っています(笑)」


(待合室から玄関を見る 平成26年4月現在)

◇この地域にきて良かったと思われる事はありますか、また大変だった事はありますか

院長:「田舎ならではの習慣が有りまして、月1回集会が在り、今月は『田んぼの溝掘り』なんて事も。うちの家は田んぼには関係ないのになぁと思ったりもするのですが、参加することでコミュニケーションが取れ、人と人との繋がりを子供達に教えるのには良い環境だと思いました。また積極的にコミュニティーに参加させて頂いた事もあって、周囲の方々が沢山通院して頂く様になりました。この地域で歯科診療を行う以上は地域の繋がりは大切だと思います。先日も日曜日(休診日)の朝からお電話を頂いて、『どうしました?』とお聞きすると『替歯がとれました』なんて言う事もしばしばあり、その都度対応させて頂いております。正直都会の歯科医院とは違い大変な部分もありますが、そういったコミュニケーションが非常に大切なのだと思っています。」

副院長:「篠山は日本の本来の姿の様な感じがします。(風土、生活、人と人とのコミュニケーション等が)日本中がこんな環境だったら、日本ももっと良くなるのではないかなと思います。」

院長:「大変な事もありますが、田舎は段々減っていくので大切にしたいですね。若い世代の人達にも見直してもらえたり、カッコいいと興味を持って貰いたいですね。」

◇古い建物と新しい医療器機械とのギャップなどはなかったのでしょうか

院長:「古い建物と新しい医療器械については、とても気にしました。この建物の目的が雑貨店とかならば、雰囲気が良ければそれだけでも良いのですが、医院ともなれば清潔性や感染予防がとても大切になるので、如何にクリーンな環境を保ちつつ、この古い雰囲気が残せるかはとても難しく、注意をしました。難しいバランスだったと思います。」


(診察室から中庭を望む 竣工当時)

◇この建物の未来がどうあって欲しいでしょうか

院長:「もう百年、二百年ぐらいもって欲しいなと思います。隣の方からも『これだけきちんと補修したのだから百年はもつよ』なんて言って貰いました、ですからこの建物を医院でなくとも子供達、孫達が継いでくれて何かに利用してくれれば嬉しいです。押し付けるつもりはありませんが、こういう建物や地域で生活するという生き方、考え方も有りかなと思います。単に建物を継ぐという事だけではなく、伝統や、文化、技術を受け継ぐという事は非常に大切な事だと思います。」

◇今後古民家再生をしようと思われる方へアドバイスなどございますか

院長:「新しく作る建物はいつでも出来るかもしれませんが、現在では入手困難な曲り梁とか柱などの良い材料が使ってあったり、日本の歴史を受け継ぐ事だったり、祖父があくせく働いて建てた医院を大事に出来たという事は、後々自分自身を誇れるところかと思いますので、古民家を利用再生しようかで悩んでいる方がいらっしゃれば、そういう事を考えて貰えれば、良かったと思えるものが建築出来ると思います。古民家再生はとても大変な事かも知れませんが、完成した後の充実感がとても有りますので、少しでも残せる状態であれば是非やって頂きたいですね。」

◇最後に吉住工務店についてお聞かせください

院長「本当に一生懸命にやって頂いたと思います。細かい要望とかにも対応して頂いて。時間的、コスト的に難しい事も有りましたが、そういった事にも色々考えて頂きました。」

副院長:「ただの古民家という事では無く、歯科医院という事もあって大変だったと思います。吉住工務店さんでなければ出来なかったのかなと思いました。本当に有難うございました。」


(笑顔あふれるご家族の集合写真 平成26年4月現在)

◇インタビューを終え、私たち吉住工務店も今回の古民家再生で非常に多くの事を経験させて頂きました。特に建設業を営んでいる企業として、古民家の再生を通じ、素晴らしい技術を継承していかなければと再認識させて頂きました。日本の伝統技術、風土、歴史、文化を大切にし、後世に受け継いで行ける企業を目指し、現代の技術と融合させ新たな可能性を生み出していければと感じました。

33歳の若さでこの建物を再生し、大変なご決断の末、開院されましたこの建物が石井先生のお子さん、お孫さんへと継がれ、後世に残って行く事を切に願っております。

(平成26年4月吉日 歯科 石井醫院にてインタビュー)

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