ARCHITECTURE STORY

兵庫県篠山市/集合住宅/新築/2013年竣工

SH-HOUSING

遊休土地の活用、相続税対策のために建てられた3棟の木造2階建賃貸住宅です。
敷地周辺には連棟型のアパートメントは多いものの戸建タイプの賃貸物件がないことから、差別化をはかるため戸建タイプとし、ターゲットを若い夫婦に絞り込んでいます。
間口が広い台形状の不整形な敷地の中に、2LDKタイプの戸建住戸が6戸とそれぞれ2台の駐車スペースが必要とされる中、敷地形状や法規上の制約から配置計画にかなりのスタディを要しました。その中で3棟のまとまりとしていかに美しく見せるかが設計上のテーマでした。3棟の角度のずれが互いに呼応し合い、敷地内に不思議なパースペクティブを与え、上下階でずらしたスリット状の開口部と、金属サイディングと塗装の壁面の差異などの設計上の工夫により、ローコストでありながら、チープな低層木造アパートのイメージから脱却して、ひとつの街並みとしても魅力ある低層集合住宅になっています。

建物概要

建物名称 SH-HOUSING
発注者 個人
所在地 兵庫県篠山市東岡屋
用途 集合住宅(長屋)
工事種別 新築
規模構造 木造/地上2階建
敷地面積 857.10m²
延床面積 127.52m² ×3棟(6戸)
住戸面積 63.76m² (2LDKタイプ)
竣工年 2013年
備考  
担当 Director 藤田瑞夫
Designer 澤田伸一
Assistant 北野章恵
Estimator 杉山栄一
Site manager 荻野秀明

設計アプローチ

3棟のまとまりをいかに美しく見せるか

間口が広い台形状の不整形な敷地であり、2LDKタイプの戸建住戸が6戸とそれぞれ2台の駐車スペースが必要とされる中、条例による景観形成基準、長屋の敷地内通路、壁面後退、がけ地の安全措置など法規上の制約も多々あり、配置計画が⾮常に難しい計画でした。法規的に適合させるだけでなく、徹底したローコスト化をはかるため3棟を同一の間取り、同一の素材で構成する中で、3棟のまとまりをいかに美しく見せるかが設計上のテーマでした。

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打ち合わせエピソード

検討の過程を見ていただくわかりやすいプレゼンテーション

クライアントには不整形な敷地の中の法規上の制約を様々な配置パターンを見ていただきながらご説明し、理解していただくことから始まりました。
結果として敷地に対してシンプルな配置に行きつきましたが、それは様々な検討を経た結果の産物でもあります。
外観の打ち合わせにはパースを数パターン作成し、壁面の色の構成がどのようなハーモニーを醸し出すかを見ていただきました。並行して並ぶ2棟をワインレッド、1棟をシルバーメタリックのカラーとし、敷地中央に位置する通路に面する壁を共通のベージュの塗装の壁とすることに落ち着きました。足場が解体され、出来上がった建物を見て「やっぱりこれしかなかったね」と言っていただけた時が、それまでの検討が報われた瞬間でした。

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プロフェッショナル

配置について

間口が広い台形状の不整形な敷地の中で、駐車台数の確保、「長屋の敷地内通路」等の法的規制の問題を巧みに解決した配置となっています。
敷地の形状もあり、どの棟も前面道路に正対せず、3棟の角度のずれが互いに呼応し合い、敷地内に不思議なパースペクティブを与え、敷地奥の山並みへと視線を促します。不整形な制約の多い敷地であることを個性として逆手に利用し、一つの独自のまち並みを形成できている魅力ある低層集合住宅となっています。

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外観について

単純な箱型のフォルムの中に周辺のアパートメントと差異を出すことを意識しています。
上下階でずらしたスリット状の開口部と、金属サイディングと塗装の壁面との貼り分けなど設計上のわずかなデザイン操作により、この建物の周辺に建つ低層木造アパートとは違う魅力ある外観を呈しています。

遮音界壁について

木造の集合住宅の場合、問題となるのが住戸間の遮音の問題です。この集合住宅は1住戸が2層で構成されるいわゆる重層長屋であるため、隣と接する壁の遮音に特に配慮しています。
建築基準法ではD-40(適用等級3級)以上の遮音性能を義務付けられていますが、この場合は隣戸の住戸の生活感がある程度わかるものであり、決して心地よいものではありません。
今回設計したこの集合住宅では、D-50(適用等級1級)レベルの遮音性能の確保を目指すため、間柱を千鳥に配置して空隙を設け伝達音を緩和し、通常の石膏ボードの2倍の重量、4倍の曲げ強度をもつ硬質石膏ボードと通常の石膏ボードの種類の違うボードを重ね貼りしています。 また界壁には、コンセントやスイッチ等設備配管の切り欠きを一切行わないことを徹底し、遮音性能の向上を図っています。
外観だけではなく、界壁等の見えない部分においても一般的な低層木造アパートとは違った設計がされています。

設計者のコメント

吉住工務店では、クライアントとの打ち合わせには、専門用語などは使わないわかりやすいご説明を心がけております。また図面の他に状況に応じて模型やパースなどを作成し、わかりやすく打ち合わせそのものを楽しんでいただけるよう努めています。
ご要望をそのままカタチにするだけではなく、この建物の遮音界壁の性能向上のように、ご要望以外のご提案も積極的にさせていただいております。そうした当社の設計へのこだわりが、クライアントの資産価値を高めることにつながると考えております。

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クライアントのコメント

現在、竣工後1年の月日が流れ、設計・施工させていただいた建物のご感想をオーナーのS様にお聞きしました

◇この場所について教えてください

S様:「この場所は、元々は1つの長方形の田んぼでした。都市計画で県道が通ることになり、しかも対角線上に通ることになったため三角形の土地が2つできることになってしまいました。交通量の多い県道に面することになったため、自然な流れとして、田んぼから商業地に変更して土地を活用していくことになり、北側を医院様に売却、南側の土地を商業テナントに提供していました。今回3棟の集合住宅を建築していただいた土地は、商業テナント様の住宅および資材等の置場として活用されていました。」


(着工前状況/左側:売却敷地、右側:計画敷地)


(着工前状況/左側:既存商業テナント、中央:既存住宅)

◇この場所で建築しようと思われたきっかけを教えてください

S様:「その後テナントが変わり、新しいテナントには付属している住宅は不要でしたので、住宅は別の方に貸していました。単なる1戸の賃貸住宅の土地としてはかなり大きく、土地の活用としてはもったいないと考えるようになり、余剰の部分を有効利用する方法を模索していました。

テナントビル等を建てる計画を考えましたが、採算面も含めてこの地域での事業としての展開が難しいと考えられたので計画を断念しておりました。試行錯誤の中で知人に相談したところ、既存の住宅を取り壊して、集合住宅を建てたらどうかと勧められました。その時に吉住工務店さんを紹介していただき、8月ぐらいにお会いしてお話ししていく中で、まず基本計画をしていただき、その後とんとん拍子に話が進み、11月には請負契約をしていました。」

◇初めから1棟2戸の木造住宅を建てようとお考えだったのですか

S様:「初めは2階建くらいの1棟の建物を考えていました。知人に紹介された別の建設会社からは木造ではなく鉄筋コンクリート造の話もありました。しかし、敷地の不整形な形状や、地域的に駐車場の台数も多く必要で、計画すると建坪が小さくなるため3階建て等の高層化する必要があることや、元々田んぼであった土地を埋め立てているので、重たい建物だと基礎工事に費用が掛かるなど、コストの問題からその計画は断念しました。

木造のアパートタイプも考えましたが、近隣にも同じようなタイプのアパートもありますし、入居者が集まるか不安がありました。そこで1戸建てタイプの賃貸住宅を建てることを考えました。この近辺には1戸建てタイプの賃貸物件はあまりないらしいのです。知人の不動産屋さんにも『このような新築の1戸建てタイプの賃貸住宅は篠山で初となるから、入居者も集まりやすい』とアドバイスもいただき、1戸建てタイプの賃貸住宅を複数建てることで土地を有効活用したいと思いました。当初は、素人考えで敷地の面積から1戸建てが5~6棟はできるだろうと安易に考えていました。敷地のかたちや建築の法令の問題などから難しいということがなかなか理解できませんでしたが、吉住工務店さんに建物の配置のパターンをいくつも計画していただき、丁寧に説明していただく中で次第にわかってきました。その結果、2戸で一つの建物を3棟建てるのがこの敷地では一番良いという結論になりました。」

◇計画中の不安はなかったですか

S様:「やはり2戸で一つの建物では、『一戸建て』ではないので入居者に好まれるかどうかが心配でした。しかし、住戸間の壁を遮音性が高いもので設計していただけるとのことで一般のアパートとは違うものにできることや、提案いただいたデザインなどから入居者に受け入れられやすい建物になりそうでしたので、最終的に吉住工務店さんに設計から施工まで全ておまかせして良かったと思っています。」


(地鎮祭 H24年12月)

◇打ち合わせ中や、工事中のエピソードがあればお聞かせ下さい

S様:「周りの田畑との高低差があって、計画前から擁壁をつくっていたのですが、なるべく周りの土地に迷惑がかからない様にと思って控えて擁壁を建てていました。そのため敷地の大きさが元の敷地測量図よりも小さくなってしまっていて、建物の大きさや配置計画を変更していただきました。不整形な敷地の中で法規的にもぎりぎりの計画でしたので、その上で敷地が縮小してしまったのは、対応していただいた設計担当の方は大変だったと思います。図面やパースなどもたくさん描いていただきました。その時の図面は今でも全部残してあります。工事中は工事担当者の方に報告をきちんとしていただいていたので、特に心配は無かったですね。ただ、寒い時期の工事だったので工事の方々は大変だったと思います。また、私の家からこの建物が良く見えて、毎日出来上がっていく様子がよくわかり、それを見ているのが楽しかったです。」


(上棟時状況 H25年1月)

◇この建物で気に入っているところはどこですか

S様:「特に外壁の色が気に入っています。打ち合わせの最中に吉住工務店さんで施工された物件を見せていただきました。パースを見せていただいていたので、実物で再確認もできてとてもわかりやすかったですね。篠山には賃貸アパートが沢山建っていますが、こんなデザインをした建物はないので気に入っています。足場が外れて外観を見てみるとイメージ通りで、やっぱりこの色しかなかったと思いました。また、3つの建物の並び方が変わっているので、景色として面白い見え方をしていると思います。」


(完成引渡前状況 H25年4月)

◇アパート経営は今回が初めてだったS様でしたが、土地の有効利用のご提案から始まり、設計、施工させていただき、今後も保守メンテナンスと末永いお付き合いをさせていただくことになりました。その中で、賃貸住宅という入居者が変わっていく建物をこれからもしっかり見守り続けさせていただきます。長きにわたってこの地の風景の中に残る建物であって欲しいと切望いたしております。

(平成26年4月吉日 S様ご自宅にてインタビュー)

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