ARCHITECTURE STORY

兵庫県丹波市/社員寮/新築/2020年4月竣工

G-PROJECT

兵庫県丹波市の郊外に位置する建物で、木造平屋建ての企業の社員寮・研修寮です。この建物は、のどかな田園風景が広がり、周囲に建物がほとんどない場所に建っています。こうした場所に、唐突に新築の建物が立ち現れると、どうしても周辺環境に対して違和感を与えてしまいます。公共的な建物であれ、個人の住宅であれ、建物は建ち現れた時、ある種の公共性を持ちます。ここでは、環境に馴染む建物として、周囲の里山の山並みを意識し、高さを抑えつつ、山型の形態をした平屋建ての建物としました。周囲の山並みとフラクタルな形態は、周囲の環境に違和感なく溶け込み、建物周囲を積極的に緑化することで、緑豊かな環境と一体化させることを意識しました。近景と遠景の同化により、すでにここに存在していたような状態をつくりだすことを意図しました。

建物概要

建物名称 G-PROJECT
事業者 株式会社技研製作所
所在地 兵庫県丹波市市島町
用途 社員寮
工事種別 新築
規模構造 木造/平屋建
敷地面積 2303.02m²
延床面積 564.51m²
竣工年 2020年
担当 Director 藤田瑞夫
Designer 澤田伸一
Estimator 杉山栄一
Site manager 細見博明、小谷敢太

設計アプローチ

周辺環境との同化

最初にこの敷地を拝見した際に感じたことは、日本の原風景ともいえるようなロケーションを建物内に積極的に取り入れ、周辺環境に溶け込む建物にしたいということでした。360度低い里山の山並みがうかがえ、北側には民家の集落があるものの、南側には建物がなく農地が広がり、東側周囲には江戸時代から伝わる造り酒屋の由緒ある建物が近接し、西側の道路沿いのみ農地転用された中に比較的新しい建物が点在する。昔からほとんど様相が変わらない場所。南側一帯の農地は道路から離れているため農地転用されることはなく、今後開発されることはないであろう。のどかな田園風景の中、そうした場所に唐突に新築の建物が立ち現れると、どうしても周辺環境に対して違和感を与えてしまいます。社員寮であれ、個人の住宅であれ、建物は建ち現れた時、ある種の公共性を持ちます。環境に馴染む建物として、周囲の里山の山並みを意識し、高さを抑えつつ、山型の形態をした「平屋建て」の建物を提案しようと考えました。周囲の山並みとフラクタルな山型の形態を持つ建物をイメージしながら計画にとりかかりました。

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打ち合わせエピソード

設計コンペでの提案


今回のプロジェクトは、2社による設計コンペによって始まりました。企業様の場合は、関わりのある⼤⼿の建築会社やハウスメーカー等に継続して依頼される場合が多く、当社のような新規の会社が⼤きな仕事を受注させていただくことは稀ですが、2018年に⼯場内に事務所建物を建てさせていただいたのを機に、この⼤きなプロジェクトにもお声掛けいただきました。

建築主の株式会社技研製作所様は、無公害杭圧⼊引抜機「サイレントパイラー」など独⾃の技術⾰新で、「圧⼊」をベースとした無公害建設⼯事を世界30カ国以上で推進、普及するリーディングカンパニーです。本社は⾼知県と東京都にありますが、この度県外から単⾝赴任されている社員のための住まい、新⼊社員のための2~3カ⽉の中⻑期の研修や、国内外からの研修のための宿泊施設の確保を関⻄⼯場のある丹波市に求められていました。

設計与件としては、相部屋⽅式ではない独⽴した個室⽅式の社員寮・研修寮とし、社員と研修者が交流できる共有リビングを設けることがありましたが、細かい仕様等は提案に委ねられていました。地元地域の計画でもあり、何とか施主側の希望以上の提案をして、受注できるよう社内でも検討を重ねましたが、最初に敷地調査をした時のインスピレーションに従い、⽊造の平屋建ての計画案をご提案しました。しばらくご返事がいただけない中、競合他社が2階建ての案ということで、当社でも2階建ての案の提出の要望を受けて、代案(右画像上・下)を提出させていただきました。2階建てにすると、同じ設計与件の場合建築⾯積を⼩さくすることができ、将来的に敷地内に別棟でもう1棟建設することが可能となり、⼟地の有効活⽤としては有利なことが、平屋建てを提案する上での最⼤の懸案事項でしたが、平屋建てのメリット(下記プロヘッショナルを参照)をご説明する中で、最終的に当社の案をご採⽤いただきました。

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コロナ禍の中で

この計画のお話をいただいたのは、2018年5⽉で、建物竣⼯が2020年4⽉末となり、約2年間に渡るプロジェクトとなりました。この間に建設業界では2つの⼤きな社会的な難題がありました。1つは2018年から2019年にかけて影響があった鋼材の⾼騰、納期の⻑期化の問題です。建物の鉄⾻部材をつなぐハイテンションボルトの不⾜で、東京五輪関連や都市再開発の建設が進む⼀⽅で、⺟材となる鋼線材が品薄となり、⽣産が需要に追いつかず、取引価格も急騰し、ボルトの不⾜が建設需要に⽔を差す状況が続いていました。この社員寮の計画においては、コストメリット、事業性のメリット等から当社では最初から構造体を⽊造とする提案としていましたが、鉄⾻造を選択した場合の鋼材の納期の⻑期化による事業⼯程の遅れを避けるため、⾃ずと建物の⽊造化を志向する⽅向へとなっていきました。

また2つ⽬としては、2020年2⽉ごろから⽇本全⼟においても未曽有の社会的影響をもたらし、6⽉現在においても沈静化には⾄っていない新型コロナウイルス感染症の蔓延による問題がありました。この建設⼯事が佳境に⼊る3⽉末頃から時を合わせるように感染拡⼤が広がり、4⽉に緊急事態宣⾔が発令されました。そのような中でしたが、お施主様には打合せはもとより、メール等にて仕様決定、申請書類のやり取り等を迅速にご対応いただき、ほとんど⼯程を遅延させることなく⼯事を進めることができました。キッチン流し台やIHコンロ、UB、便器等の住設関係は、建物が12⼾からなる共同住宅で数があることもあり、⼀部でも納期の遅れがあれば、お引渡しが間に合わないところでしたが、全国的に納期遅れがある中で、様々な決定を早くいただき、発注を早めにできたことで予定通りにお引渡しをすることができました。また現場での感染症対策として、マスク着⽤、消毒や⼿洗いなどを徹底するなど、作業員の健康管理に留意。作業員の感染と濃厚接触が判明した場合の連絡体制を構築して、該当者への適切な措置を取ること。感染リスクの⾼い「3密」の回避とその影響を緩和する等の対策を早期に実施し、⼤阪や京都からの協⼒業者の現場への出⼊りも多数ある中で、全員の感染・蔓延防⽌の意識の向上により、無事故無感染で⼯事を終えることができたのは幸いでした。


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プロフェッショナル

平⾯計画について

相部屋⽅式ではなく個室⽅式の社員寮・研修寮で、⼀⼈⼀⼈の⽣活を尊重し、キッチンやトイレ、洗⾯所は各住⼾内に独⽴して設けていますが、建物全体を⼊居者が共有する⽣活の中でコミュニケーション能⼒を⾼め、チームワークの形成を図ります。

平⾯計画としては、建物に2本の軸線を意識させるシンプルな構成としています。南北の軸線は、南側のロケーションと建物の連続性をもたせることを意図しており、エントランスから共有のリビングを介して、ウッドデッキ、さらにその先の⽥園⾵景へとつながる視界の抜けを明快に感知することができます。外部に突き出すように延⻑させた住⼾間の界壁や、南北に向かって折れ下がる勾配天井等でパースペクティブな効果が得られ、⽅向性をより強調させています。また、南北の軸線に直⾏する東⻄の軸線は、各個室の中廊下となっていますが、共有リビングを挟んで東⻄の個室を8室+4室のユニットに分け、軸線を直線的に通すのではなく、クランクさせることでエンジンのクランクシャフトのように往復運動を回転運動に変えるがごとく、シンプルな空間構成の中、わずかなプランニングの操作で空間に変化と豊かさを与えています。




東側と⻄側の住⼾ユニットの間に、約80㎡の共有空間「クラスターリビング」を配置しています。
全世界的に新型コロナウイルス感染症が蔓延する中では、「クラスター」とは感染者の集団や集団感染の意味として認知されるようになってしまいましたが、本来は「(ブドウなどの)房」「群れ」「⼩さな集団」などを意味し、ここでは、同じ会社の中で同じ住まいで⽣活を共にする⼈たち、国内外から研修のためにここで2〜3ヶ⽉の⼀定期間暮らす⼈たちなど、会社内でのさまざまな部署や⽴場の違いを横断しつつ交流が⽣まれ、ひとつの新たな連帯意識が芽⽣える場としての意味を持たせて「クラスターリビング」としていました。天井⾼さもあり、外部へと連続したウッドデッキにより、広がりがある⼼地よい空間になっており、「ひとつ屋根の下」で共に過ごす意識を⾼めるため屋根勾配なりの勾配天井としています。

また来訪者との交流、災害時の地域防災の拠点など多⽬的に使⽤される空間となることを意図して計画しています。


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平屋建てのメリット
  • 上下階の⾳の⼼配がない

    住⼈にとって上下階の⽣活⾳が聞こえることは⼼地よいものではありません。平屋だとその⼼配はなく、隣との界壁のみ、遮⾳性を配慮すれば済みます。

  • 住⼈間のコミュニケーションが取りやすい

    平屋は同じフロア内にすべての⽣活スペースが収まることになります。そのため、顔をあわせる機会が多くなり、コミュニケーションが取りやすくなるのが最⼤のメリットです。

  • 庭とのつながりを演出しやすい

    クラスターリビング、外部デッキ、庭と⽔平⽅向に床⾯が連続していくことで、空間に広がりが得られます。内外⼀体となった空間では、セミナーや外部社員との交流など多⽬的に空間が利⽤できます。

  • ⾃由な天井

    各住⼾は2.4m程度の⼀般的な居室の天井⾼さとしていますが、クラスターリビングは天井⾼さを⼤きく確保。屋根勾配なりの緩やかな勾配天井として、不燃⽊材を張った⽊質感のある豊かな癒しの空間を構築しています。

  • 階段が不要 2階建て以上では2以上の直通階段が必要になる場合もあります

    各住⼾は2.その分のスペースを有効に活⽤でき、同じ床⾯積で広々とした空間が確保できます。例えば階段が2.0M×4.0Mのスペースを必要とすると上下階分で16㎡(9.6帖)分のスペースが⽣活スペースとして有効活⽤できます。

  • 構造的に安定しやすい

    各住⼾は2.2階建てに⽐べて⾯積当たりの建物の⾃重が軽い分、構造的に有利です。地盤が悪い場合、基礎への負担はかなり軽減でき、地盤改良等が不要になる場合もあります。.0M×4.0Mのスペースを必要とすると上下階分で16㎡(9.6帖)分のスペースが⽣活スペースとして有効活⽤できます。

  • メンテナンスしやすく費⽤も安くすむ

    コンパクトな平屋なら共⽤部の掃除等も2階建てほど⼤変ではありません。また業者によるメンテナンスの場合、2階建てだと⾜場を組む必要がありそのぶん費⽤がかさみます。

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外観について

周囲の⾥⼭の稜線とフラクタルな⼭型の形態をした建物になっています。

外壁はモルタル塗りの左官仕上げで、天然⽯と無機質系顔料が主成分の為⾊褪せや⾊落ちがなく⾃然な⾵合いのある仕上げとなっています。硬化材が無機質系材料の為耐久性が⾼く、⼀般的な外壁塗料の様に10年周期の塗り替えが必要がなく洗浄程度で済むため、メンテナンスの負担を軽減することができます。

屋根はガルバリウム鋼板で、遮熱効果の⾼い⽩⾊としており、けらばの出をなくし、軒の⾼さを抑えて、全体としてマッシブな⽩いフォルムが際⽴つ外観となっています。⻄側と東側の住⼾ユニットの軸線のずれがそのままデザインとなっており、南北に⾯する各住⼾のバルコニーは床をキャンチレバーで浮かすことにより、建物に軽快感を与えています。

バルコニー⼿摺は、スチールフラットバーを⽤いたオリジ
ナルのデザインで遮蔽性と通⾵性を両⽴させています。

内観について


床のフローリングは、耐久性、耐水性に優れたオーク材を採用。乱尺張ではなく幅広の長尺材を使用しており、空間に重厚感や高級感を与えています。

天井は共用リビングのみ勾配天井とし、流れるような木目が美しいタモ材を使用。法的に内装制限がかかることから不燃仕様の木材を使用し、できるだけ建物を木質化することで人と地球環境にやさしい空間を構築しています。

各個室には、生活に必要な家具が造り付けで備えられており、ベッドはセミダブルロングのサイズで、海外等からの大柄な体型の宿泊者に対してもアメニティを損ねることはありません。

開口部はアルミサッシの規格品ではあるものの、天井いっぱいの高さに配置し、ガラス面を大きく確保。明るく開放的で、窓の外に広がるのどかな田園風景は心を癒してくれます。また見えない部分にも快適性を配慮。住戸間の遮音性に対しては、間柱を千鳥に配置して空隙を設けることで伝達音を緩和し、石膏ボードを重ね貼りした上に、さらにふかし壁を設け、コンセント・スイッチ類等はふかし壁側に設け、界壁に穴や切り欠きを一切開けないようにして、住戸間の音を遮断。一般的な低層木造アパートとは違った遮音性の高い仕様としています。

中⼤規模⽊造建築の取り組み

吉住⼯務店では、住宅以外にも公共建築物、公益建築物などへ炭素を固定している⽊材の利⽤推進を図り、循環型社会に貢献することが重要であると考えています。 環境意識の⾼まり以外にも、建築において⽊造を積極的に採⽤する理由の⼀つとして、コストの優位性があります。構造躯体そのものが安価であることに加えて、⽊の⾃重の軽さから地盤に対して負担が軽くなり基礎⼯事の費⽤も軽減できます。また鉄⾻造やRC造に⽐べて⼯期が短くでき、現場管理費や仮設費⽤の削減にもつながります。

設計の⾯からも、スパン6m超でも軒⾼9m超、最⾼⾼さ13m超以外は適合判定対象とはならないなど、設計⼯期の短縮、確認申請費⽤の削減などコスト⾯での優位性をあげることができます。さらに、税の⾯からも⽊造は有利で、減価償却に規定されている耐⽤年数が鉄⾻造やRC造に⽐べて短く設定されており、特に事業⽤では、経営的にこの減価償却をどう経費で落としていくのかが節税対策として⼤きなメリットとなります。 また⽊造は、デザイン的にも鉄⾻やRCにはないテイストを実現することが可能です。⼈⼯的に⽣成される「鉄」や「コンクリート」ではなく、⾃然素材である「⽊」を使うことで、地球環境や⼈に優しい建築物になることができ、デ ザイン的にも時間と共に独特の⾵合いを醸し出すことが可能です。

今回の計画では、計画段階でVE案を検討していく中で、⽊構造の中でも枠組壁⼯法を採⽤しました。枠組壁⼯法は、19世紀初頭にアメリカで誕⽣し、⽇本に枠組壁⼯法が⼊ってきたのは明治の初頭で、札幌の時計台や豊平館など、枠組壁⼯法で建てられた建築物は、100年以上経た現在でも、美しい姿で⽴っています。今回の建物を⽊造で計画にするにあたり、そうした「耐久性」や、「耐震性」、「防⽕・耐⽕性」、「気密・断熱性」に優れた枠組壁⼯法を採⽤しました。

枠組壁⼯法のメリット
  • 耐震性

    住⼈にとって上下階の⽣活⾳が聞こえることは⼼地よいものではありません。平屋だとその⼼配はなく、隣との界壁のみ、遮⾳性を配慮すれば済みます。

  • 防⽕・耐⽕性

    ⽕の通り道となる床や壁の内部において枠組み材がファイヤーストップとなり、空気の流れを遮断し上階へ⽕が燃え広がるのをくい⽌めています。初期消⽕の可能性が⾼く、⽕災時の被害を最⼩限に抑えます。その⾼い耐⽕性は⽕災保険料率にも反映されています。

  • 気密・断熱性

    枠組壁⼯法は、壁同⼠を組み合わせる構造のため、気密性を確保しやすいのが特⻑です。特に、床⾯の施⼯後に壁を載せる「床勝ち」であり、在来軸組⼯法のように、根本的に床下から冷たく湿った空気が上がってくる⼼配のない⼯法です。構造体そのものを断熱化し易く、気密施⼯も容易なため、建物⾃体がもともと優れた断熱性・気密性を兼ね備えています。

  • 気密・断熱性

    各住⼾は2.枠組壁⼯法は、壁同⼠を組み合わせる構造のため、気密性を確保しやすいのが特⻑です。特に、床⾯の施⼯後に壁を載せる「床勝ち」であり、在来軸組⼯法のように、根本的に床下から冷たく湿った空気が上がってくる⼼配のない⼯法です。構造体そのものを断熱化し易く、気密施⼯も容易なため、建物⾃体がもともと優れた断熱性・気密性を兼ね備えています。

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設計者コメント

単⾝赴任で丹波の地に来ている⼈や、社会⼈に成り⽴てで研修のためにこの地を訪れている10余⼈が、この建物の中で⽣活を共にします。同じ会社ではあるものの部署や⽴場の違う⼈、新⼊社員、国内外からの研修者等が交流し、丹波(=⽇本の原⾵景)を意識しながら共に過ごす中で、⼀⼈ひとりの⼼に残る⾵景や思い出がつくりだせないかと考えました。今後、この寮から出て⾏った後のそれぞれの⼈⽣において、ここでの⽣活が少しでも豊かな記憶として残り、少しばかりの励みになり、社会⼈として成⻑の⼀助となれば、設計者としてこの上なく嬉しい限りです。

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