社員の働く環境の充実と地域・環境への貢献の取り組みとして、地域資源・地域産材を活用した木造2階建ての新社屋です。吉住工務店は、SDGs目標達成のための取り組みとして、建築物の木質化を推奨し、中大規模木造建築への取り組みを志向しています。新社屋の建設にあたり、地域に根付く工務店として、兵庫県産・丹波市産の木材の活用にこだわりました。
地域産材を活用し、地域の職人技術によりつくる新社屋が、地域の工務店が示す中規模木造建築のモデルケースとなることを期待しています。
建物名称 | Y-OFFICE | |
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発注者 | 株式会社吉住工務店 | |
所在地 | 兵庫県丹波市春日町 | |
用途 | 事務所 | |
工事種別 | 新築 | |
規模構造 | 木造/2階建て | |
敷地面積 | 3,195.87m² | |
延床面積 | 768.52m² | |
竣工年 | 2021年 | |
備考 | ウッドデザイン賞 2022受賞 人間サイズのまちづくり賞 知事賞受賞 |
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担当 | Designer | 株式会社吉住工務店 |
NPO法人サウンドウッズ | ||
株式会社K・建築ラボ | ||
株式会社山田憲明構造設計事務所 | ||
ジャルディニエ佳代子 | ||
株式会社晴雨ランドスケープ | ||
Site manager | 株式会社吉住工務店 |
木材活用の意義が見直される中、多人数で利用する新社屋に、地域産の住宅用製材を組み合わせて構成する木造のハーフアーチ構造を採用しました。
太さや長さに制限のある住宅用製材で大スパンを構成することは、接合部の設計および施工に苦慮する場合が多くあります。ここでは、力の流れを空間の演出として表現し、金物接合に頼らず伝統的な大工加工による接合部にこだわることで、軽やかなアーチ形状を実現しました。また、無垢製材や漆喰の特徴である断熱性、吸放湿性などに着目し、居住性を高める環境設計に配慮しました。心地良い住まいのような快適性の中で、働く人がその能力を最大限に発揮でき、気持ちよく働き続けられる空間を目指しました。
吉住工務店は、創業者である吉住茂が昭和17年に左官店として開いたのが始まりです。それ以来地域の皆様のご愛顧のお蔭で業容を拡大し、地域の公民館や小学校校舎など多くの公共事業をはじめ、住宅やリフォームにおいても数多くのご縁をいただき、今日まで歩んでまいりましたが、業務の拡大、社員数の増加に伴い、創業80年となるこの機会に創業100年に向けて歩むべく、新社屋の建設に至りました。
戦後植林された木材が最盛期を迎え、現在日本の森林は十分に手入れがされておらず、土砂崩れ等の災害のリスクを抱えています。地元産材を積極的に活用することは、定期的に森の木を伐採し、地元の森林を健康的な状態に維持・管理することだけではなく、地域を守るということにも結びつきます。当社も建築物の木質化を進める中で、地元産材を活用するということに重点を置いて取り組んできました。今回も同様に兵庫県産・丹波市産の木材を、構造材や室内の仕上げなどに積極的に活用しています。地元資源の活用は、豊かな自然からなる地元丹波の森を守り、基盤を置く 丹波地域への貢献にも繋がっています。
また、創業者から現会長の吉住俊一へと受け継がれた山から伐採した杉・檜を、新社屋の一部に活用しています。伐採の際には、専門家による勉強会を実施し、社員の木に対する理解を深める契機としました。
計画地は、丹波市春日町に位置する当社敷地内で、旧社屋の横に増築する形で建設しました。建物外観は、2階建て棟と平屋建て棟に機能を分散し、全体のボリュームを抑え、周辺環境に圧迫感を与えないように配慮しました。2階建て棟には吹抜けギャラリーや執務室、会議室等を配置し、平屋建て棟は社員が主に働く工務室となっています。
屋根は、かつて使用していた当社工場や周辺建物の屋根形状に合わせて切妻屋根とし、街並みに統一感を持たせられるように配慮しています。
構造計画は、現在最も活躍する構造家の一人であり、木構造のスペシャリストでもある山田憲明氏によるものです。
吹抜けギャラリーの屋根架構には、兵庫県で入手可能な住宅用製材により長スパンを構成するため、木造のハーフアーチ構造を採用しました。更に、構造をあらわしにすることにより、2階部分の各居室や吹抜け部分では豊かな素材感を体感でき、開放的な空間を実現することができています。
ハーフアーチ構造とは、中央の柱を起点に左右対称な構造とすることによる、力の釣り合いを利用したものです。小径木を組積造のように組み合わせてなめらかなアーチ形状を構成しています。また、下弦材や束は2材抱き合わせとして材幅を大きくし、水平にかかる力に抵抗させています。この方法により、振止めや金物を使用しない、小径木の架構で構成された軽やかなアーチ形状を実現しています。
工事着工後には、ハーフアーチ部分の実物大モックアップを作成し接合部などを検討しました。モックアップとは、加工・組立上の課題や仕上がりの確認を行うことが主な目的で、職人や設計者、施工者と意見や考え方を共有する重要なツールとなっています。また、組立方法は、施工者とのやり取りの中で、現場ヤードで一対のハーフアーチを地組して一気に吊り上げるという方法をとることで、安全性や工期の短縮を図ることができました。
新社屋の床には兵庫県産檜の無垢フローリングとし、壁・天井は地域の職人技術による左官仕上げとしています。左官業からはじまり、現在の企業姿勢である環境への貢献、建物の木造化を推奨しながら、地域の材料と技術を使って、地域と共に発展していく企業であることを象徴的に表現した内部空間となっています。また、曲面を帯びた左官仕上げの床・壁・天井と木の架構が、滑らかに連続する空間構成とし、訪問者を温かく迎え入れます。
環境貢献の意識として、社屋の周囲は積極的に緑化し、地域の緑の風景の一部となる景観を形成しました。黒井城跡のある山並みがうかがえる北側には水盤を設け、地域の歴史と景観を水の鏡に映し取ります。
また、水盤の周囲や正面には建築材料となる杉、檜を植樹しています。新社屋では、創業者から現会長の吉住俊一へと受け継がれた山の杉、檜を伐採・製材し、一部の主要な柱や内装材、下地材に使用しました。
今後は、新たに植樹した樹木を社員と共に育て、工務を通じて社員を育成し、創業100周年には、次代を担う社員たちが育てた杉、檜を社屋の増築等に使用し、さらなる会社の発展へと繋げていってほしいという願いを込めています。
県産木材の利用の普及を図るべく、兵庫県産のJAS製材を活用した中大規模木造建築の事例として、講演会・社屋見学会を実施しました。竣工半年後に開催した講演会・社屋見学会には、県内外から約50名の参加がありました。
関係者による講演・意見交換会を通して、中大規模木造建築物の普及やJAS材の意義について理解成熟を図り、地域の木材を活用した非住宅分野の木造化を促進する契機としました。また、お客様の社屋見学会や官公庁関係の施設視察なども実施しており、積極的に取り組みを広げています。
工事風景・内観外観の全容がご覧いただけます。
『吉住工務店新社屋』竣工(10分)