丹波並木道中央公園は、「丹波の森構想」に基づく広域レクリエーション、都市と農村の交流及び地域活性化の拠点となる広域公園で、近隣住民の間では愛着を持って親しまれています。しかしながら、素晴らしい環境の公園であるにもかかわらず、近郊市町はおろか、丹波・篠山地域での認知度は低く、丹波・篠山地域の活性化という大きな意味では、有効に機能しているとは言い難い面があるのではないかと思われました。認知度を上げ、誘客の強化をはかるため、公園名にもある『並木』、『並木道』という特質を活かし、計画の中に積極的に取り入れることで、公園全体と新たに誕生するサイクルステーションのブランディングを意識した計画としました。
計画敷地を取り巻く公園全体の地形の文脈から、公園管理事務所前の円形広場の中心を「環」の中心点と捉え、その同心円状に園内のケヤキ並木、サクラ並木から連続する並木道の延長に見立てた回廊を設け、それに沿うように各室を空間構成しています。休憩・フリースペースは、樹形をイメージした木の架構があらわしになった開放的な空間で、下地や天井の仕上に用いた構造用合板も含めて、兵庫県産のスギ、ヒノキの木材で構成しています。
建物名称 | 丹波並木道中央公園サイクルステーション |
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事業者 | 兵庫県丹波県民局 |
所在地 | 兵庫県丹波篠山市西古佐90-1他 |
用途 | その他(サイクルステーション) |
工事種別 | 新築 |
規模構造 | 木造/平屋建 |
敷地面積 | 2237.54m² |
延床面積 | 160.52m² |
竣工年 | 2021年 |
備考 | 丹波並木道中央公園サイクルステーション設計施工企画提案コンペ 最優秀案(優先交渉権者) ウッドデザイン賞2022受賞 |
担当 | Director 藤田瑞夫 |
Designer 澤田伸一、塚田みずき(ロゴマーク・サインデザイン) | |
Estimator 杉山栄一 | |
Site manager 荻野展由、杉本拓哉 |
自然と人と文化が調和した地域を「丹波の森」と呼び、大切に守り育てていく。行政、事業者、丹波地域住民が一体となって、この思いを昭和63年の「丹波の森宣言」に込め、実践してきました。その結果が日本の原風景といわれ、全国に誇れるふるさと丹波の今の姿につながっています。
丹波並木道中央公園は、「丹波の森構想」に基づく広域レクリエーション、都市と農村の交流及び地域活性化の拠点となる広域公園です。近隣住民の間では愛着を持って親しまれ、有効活用されているものの、素晴らしい環境の公園でありながらも認知度が低く、当初のビジョンである「丹波・篠山地域の活性化」という大きな意味では、有効に機能しているとは言い難い面があると感じました。
このサイクルステーション建設のプロジェクトにおいて大切なことは、自転車利用者や公園利用者の休憩・交流の場という機能を持った単体の施設を建設するだけではなく、公園の存在自体を最大限に活かし、公園全体から丹波篠山市の近隣地域へ、さらには丹波地域全体の活性化へとつながる強いメッセージ性を持った施設をつくることであると考えました。
兵庫県丹波県民局では、サイクルツーリズムの推進とともに都市公園の活性化に取り組むため、丹波並木道中央公園に兵庫丹波チャレンジ200(延長約200kmのサイクリングモデルルート)の拠点施設としてサイクルステーションの整備を計画されていました。
本施設を兵庫丹波チャレンジ200の拠点施設としてのシンボルとして、また多くの利用者にとって快適で利便性の良い施設とするため、施設配置、室内レイアウト、意匠等について広く提案を求める設計施工一括業務の企画提案コンペが実施されました。
このような設計施工のコンペは、今後も増えていくことが予想され、新たな仕事の受注の入口を広げるため挑戦することになりました。当社ではこうした設計施工のコンペは初めての挑戦でしたが、一次審査、二次審査のプレゼンテーションを経て、当選者に選定されるに至りました。
『サイクリング』とは「風になり、世界とつながる」ことである。
『世界』とは、人、自然、歴史、文化、食などであり、これらは丹波地域住民にとっての資産である。サイクルツーリズムを推進し、誘客の強化、交流人口の増加、地域経済の活性化へとつなげていくためには、これらを最大限に活用し、官民協同、地域間連携、政策間連携など、地域が一体となった事業展開が必要となると思われます。そのためには統一的なコンセプトが明確に示されている必要があると考えました。
計画敷地を取り巻く公園全体の地形の文脈から、公園管理事務所前の円形広場の中心を「環」の中心点と捉え、サイクルステーションも含めて、公園全体のコンセプトを再定義することを志向しました。
「丹波の夢ビジョン」で示されている「いのち(自然)・ひと(人間)・なりわい(産業)」の3つの「環」を育む公園施設であることに加えて、今回計画されるサイクルステーションが、サイクルツーリズムの推進による地域の活性化の拠点として、『わ(環・和・輪)を育み、広げ、つながりをつくっていく』というコンセプトを建築計画により明確に表現したいと考えました。コンセプトの強度を高めるために核となる幾何学上の中心点を据え、同心円状に園内のケヤキ並木、サクラ並木から連続する並木道の延長に見立てた回廊を設け、それに沿うように各室を空間構成しています。休憩・フリースペースは、樹形をイメージした木の架構があらわしになった開放的な空間で、下地や天井の仕上に用いた構造用合板も含めて、兵庫県産材のスギ、ヒノキの材で構成しています。
丹波並木道中央公園は、名前の通り園内にケヤキ並木やサクラ並木等が美しく整備されています。
日本の並木は、奈良時代に奈良・東大寺の普照法師によって植樹されたのが、最初の並木の記録とされています。
戦国時代の織田信長の命により並木道の整備が行われ、江戸時代には五街道の主要な街道の整備が行われ、並木が植えられるようになりました。諸侯および家臣たちの大行列が、お互いに何の支障もなく行き交うことができるほどに整備され、松、杉、栗、または桜の木々の美しい並木道ができていきました。そうした古来からのつながりを感じさせるように、丹波並木道中央公園もまた並木が整備された地域住人に愛される都市公園となっています。
この『並木』、『並木道』という特質を活かし、計画の中に積極的に取り入れることで、公園全体と新たに誕生するサイクルステーションのブランディングを意識した計画としました。
計画地は不整形ながけ地で、元から建物を建てるために計画された場所ではないように感じました。また、計画地は公園内の一部の敷地で、園内は県所有、市所有等の複数の建物が建っており、それらの増築というカタチになってしまうとそれぞれの日影規制等の法的対応が必要となり、計画が困難を極めるため公園を敷地分割し、約540m先の道路に接道させ、新築として計画しました。
できるだけ周囲の環境に圧迫感を与えない建物としたかったため、園路側の軒高さを抑えた片流れの屋根とし、雨水は前面の栗石に落とす計画とし、軒先のデイテールを美しくまとめています。
園内の並木道(ケヤキ並木・サクラ並木)の延長線上に沿いながら、緩やかに弧を描く回廊を配置し、そこから各室へアクセスできる動線計画としています。公園を訪れた人が、寄り道をするように立ち寄ったり、散歩道として通り抜けたり、脇道のように気軽に利用できる通路になっています。
ルート全長200kmの中に城跡、寺院、丹波竜、丹波焼など多彩な歴史・文化が盛りだくさんのサイクリングモデルルート『兵庫丹波チャレンジ200』や、太古の昔から生き物が交流するルートであった『氷上回廊』、自然を愛で、地域交流を育む『ふるさと桜づつみ回廊』等と潜在的につながり、心地よい風が吹き抜けていく『風の回廊』として、サイクリストや地域住人の交流路になることを意図しています。
また、回廊と直交するように、各トイレへの通路を設けました。トイレへの入り口は園路から見える回廊には設けたくなかったのと、建物背後の林への抜け感を醸し出したかったためです。単なるトイレへの通路ではなく、アクセスが心地良いものとなるように、通路正面にイロハモミジを植樹しました。周囲の常緑樹に対して紅一点、秋には美しい色どりを見せてくれることでしょう。
コンペ要項の設計与件としては、兵庫県内産木材を使用した木造平屋建ての建物で、主となる空間として60㎡程度の休憩・フリースペースが必要でした。6.37mのスパンで3寸勾配の屋根をかけ渡し、天井が高い豊かな空間とするため、構造の検討を慎重に行いました。この場合、単純形式の登り梁では大断面の集成材が必要で、一般的なトラス架構では水平な材が必要となり空間が低くなる等のデメリットがあります。そのような中で、一般流通材のみでトラスを構築し、空間を高く確保、意匠性も獲得できる工法を模索しました。
計画したトラス架構は、120×240の上弦梁を120×120の下弦梁が支えるカタチで、並木の樹形を模した形態としています。接合部は、美しく納まるよう特注の金物を挿入し、ドリフトピンで留める工法としています。柱脚の金物も特注でデザインし、回廊部の列柱等はドリフトピンを貫通させず、正面からは見えないように配慮しています。水平構面を構成する天井の構造用合板は兵庫県産のヒノキの合板で、あらわしとし、あえて下地材特有の粗い節を見せて野趣あふれた内装としました。
『県産材で美しい木造空間をつくる』ことは、建築物の木造化・木質化の推進へとつながり、兵庫県下で滞っている「伐採」→「植林」→「保育」の循環を促し、『丹波の森を守る』ことにつながります。このサイクルステーションにはそうしたサイクルの意味も込められています。
ロゴマークやトイレ等のピクトグラムも当社のオリジナルデザインです。当社では、これまでもロゴマークやピクトグラム等を必要に応じて自社でデザインしてきました。この建物のロゴマークに関しては、コンペの一次審査の提出の段階から、デザインを提示し、丹波並木道中央公園と新たに建設されるサイクルステーションのブランディングに寄与することを意識していました。並木をデザインしたロゴマークは、建物の回廊や樹形を模した木の架構のデザインと相まって、ビジュアルアイデンティティを創出し、ブランディングの手段として有効に機能するようデザインしています。
サイクリストや来園者が、ロゴマークがデザインされた看板の前で建物を背景にして写真撮影、インスタグラム等のSNSへの投稿をしていただくことで、この施設の認知度が上がり、誘客の強化へとつながることが期待されます。また、様々な販促物や缶バッチ、Tシャツ等のグッズに採用されていけば、新たな展開が広がると思われ、全国のサイクリストに訴求し、この施設および丹波地域が「一度は行ってみたいスポット」として認知されていくことを願っています。
何もなかった場所に唐突に建物が立ち現れるのではなく、元からこの場所に存在していたかのような状態をつくり出したいと考えました。最初に敷地を訪れた時、計画地は不整形ながけ地で、元から建物を建てるために計画された場所ではないことは明らかでした。手がかりを得るため広い公園内を歩き回りましたが、公園内に無造作にある円形の広場と花壇に目が留まり、ここに新たな意味を持たせたいと思いました。どのような建物であれ、計画にあたっては、土地の文脈を読み解くことが最も大切であると考えています。公園の中心機能として位置する公園管理事務所前の円形広場の形状を活かし、円弧の連続による形態操作で外観をデザインしています。アール形状の片流れ屋根と、回廊の列柱が周辺環境をやさしく内包するように、環境と一体となることを意図しました。
建物が完成した時、自然なカタチで建物が存在している状態を見て、意図したことを成立させることができたと感じました。
今回は設計施工の企画提案コンペで、コンペでの提案内容そのままに完成させることができました。選定されてからの打合せでは、県の担当者や、関係者、公園管理事務所の方々と多くの打合せをさせていただきながら、より良い建物とすることができました。コンペの案を尊重するかたちでご配慮いただき、心より感謝いたします。全国のサイクリストや地域住人の方々に気軽に利用していただき、サイクルツーリズムの推進と地域の活性化につながることを願っています。